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特集

世界遺産
ツィンギ・デ・ベマラ

NOVEMBER 2009


 ただし、「足を踏み入れる」のが容易ではない。雨期の終わった3月、私は写真家のスティーブン・アルバレスとともにツィンギ・デ・ベマラ国立公園を訪れた。探査するのは4度目だという爬虫類学者のラコトンドラボニーがガイド役を引き受けてくれた。ツィンギ・デ・ベマラを複数回訪れたことのある数少ない研究者の一人だ。

 マダガスカルの首都アンタナナリボに到着したのは、クーデターの勃発で大統領が失脚した直後だった。市内では数日おきに暴動が発生し、国の主要産業である観光業はほぼ壊滅状態にあった。私たちは途中で旅が中断されるのではないかと心配しながらアンタナナリボを出発したが、市外は意外にも穏やかだった。

 国立公園に到着するのに、ほぼ5日かかった。アンタナナリボを発って3日もすると、道路はわだちが深く刻まれた無舗装道路にすっかり姿を変えた。黒い泥の広がる窪地を車で進み、フェリーでいくつかの川を渡った。上流での森林伐採によって土砂が流れ込み、川の水は赤く濁っていた。進むほどに村の数が減り、車も見かけなくなり、辺りにはうっそうと茂る森が広がるようになった。

 小さな村の近くにある山道の起点から、私たちはツィンギ・デ・ベマラ国立公園の中へと徒歩で進んでいった。数カ月に及んだ雨期が終わり、長い乾期が始まろうとしていた。乾期に入ると、多くの生物は活動を休止して次の雨期の到来を待つ。私たちは澄んだ水の流れる川のほとりにテントを張り、崖の中腹から張り出した岩棚の下にキッチンを設営した。崖は木々のてっぺんのさらに上までそびえ、頂上には針のように鋭くとがった岩が連なっている。

 「ツィンギ」というマダガスカル語は、「裸足(はだし)では歩けない土地」という意味だが、実際のツィンギは頑丈な靴を履いていても満足に移動できるものではなかった。ロッククライミング用の道具を使わないと進めない場所がいくつもあったのだ。しかも、鋭利な岩肌は、道具も人体もやすやすと傷つけた。登はんする必要のない場所では、ハチミツやキツネザルを目当てにやって来る地元の人々が使う山道をたどって、迷路のような“石の森”を探査した。

 とがった岩の先端がブーツのゴム底に刺さり、穴が開くこともあった。針のような山を一つ越えても、そこにはより凹凸の激しい岩山が連なっているということも多かった。慎重に体のバランスをとり、それから次にどう行動すべきかを考えながら進んだ。

 幸運なことに、私たちは1日に1キロのペースで前進できた。それでも、大都会に林立する高層ビルを一つひとつ屋上まで登ってその反対側を伝い降りていくような作業である。移動するだけでもこれだけ苦労するのだから、生物の調査は困難を極めた。

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