/2009年10月号

トップ > マガジン > 2009年10月号 > 特集:ある難破船の数奇な運命


定期購読

翻訳講座

ナショジオクイズ

約20種いるオウム科の一種、アカサカオウム。こうしたオウムの主な生息地は次のうちどれ?

  • 南米
  • アフリカ
  • オーストラリア

答えを見る

ナショジオとつながる

週2回
配信

メールマガジン無料登録

メルマガ登録の詳細はこちら



特集

ある難破船の
数奇な運命

OCTOBER 2009

文=ロフ・スミス 写真=エイミー・トンシング イラスト=ジョン・フォスター

フリカ南部ナミビア沿岸のダイヤモンド採掘場で見つかった、16世紀ポルトガルの難破船。その積荷は、なんと大量の金貨だった。

 現実の歴史には、奇想天外なおとぎ話などまずあり得ない。だが、これから紹介するのは実際に起きた出来事だ。16世紀、あるポルトガルの貿易船が金や象牙などの財宝を積み、香辛料の交易地として知られたインド沿岸の港を目指して出航したが、アフリカ最南端の喜望峰沖を航行中に嵐に遭い、航路を大きく外れてしまった。数日後、ずたずたに引き裂かれたその船は、霧の立ち込める海岸に打ち上げられた。そこはおびただしい数のダイヤモンドの粒がきらめく場所で、香辛料貿易で一獲千金を狙った船乗りたちの夢をあざ笑うかのようだった。

 2008年4月、ナミビア南岸のオレンジ川河口近くの砂浜で難破船の遺物が見つかった。ここは南アフリカのデビアス社が所有するダイヤモンド採鉱地「シュペールゲビート(ドイツ語で“立ち入り禁止地区”の意味)」だ。

 この場所で驚くべき難破船の発見がなかったら、夢物語のような話は永遠に歴史の闇に埋もれたままだったろう。

 鉱区U-60を調査していたデビアス社の地質調査員が、完全な半円球状をした、石の塊を見つけた。不思議に思ってこの塊を拾い上げると、すぐにこれが銅のインゴット(鋳塊)だと気づいた。磨り減ったインゴットの表面には奇妙な三叉(みつまた)の矛(ほこ)のしるしが刻まれていて、これはルネサンス期のヨーロッパで有数の富豪であったフッガー家のアントン・フッガーの紋章であることが判明した。16世紀前半、インドからインドネシアにかけての東南アジアで行われた香辛料貿易の支払いに使われたのだろう。

 その後、考古学者たちは砂浜から、実に22トン分ものインゴットのほか、大砲や剣、象牙、天体観測儀、マスケット銃、鎖かたびらなど、数千個に及ぶ遺物を発見した。遺物の中には大量の金もあり、ずっしりと重い、美しい金貨が2000枚以上も見つかった。その大半はスペインのフェルディナンド国王とイザベラ女王の肖像をかたどったエクセレンテス金貨だったが、ほかにもベネチアやフランスなどの金貨、北アフリカのイスラム教国の金貨や、ポルトガルのジョアン3世の紋章が刻まれた美しい金貨も含まれていた。

 サハラ砂漠以南のアフリカ沿岸部で見つかった難破船としては最古で、遺物もこれまでに発見された中で最も貴重なものだ。莫大な価値をもつ遺物以上に、考古学者の想像力をかきたてたのは、難破船のほうだった。大航海時代の最盛期だった1530年代に建造された、このポルトガルの東インド貿易船は、財宝や交易品などの積荷を積んだまま、手つかずの状態で500年近くも砂浜に埋もれていたのだ。

 「きわめて貴重な発見です」。ポルトガルを代表する海洋考古学者で、同国の文化省の下で海洋考古学調査を指揮するフランシスコ・アルヴェスはそう語る。

 デビアス社とナミビア政府は「ナムデブ」という合弁会社を設立し、この場所でダイヤモンドを採鉱してきたが、難破船が見つかると、現場周辺の操業を中断して考古学の専門家を招き、数週間かけてダイヤモンドの代わりに歴史を発掘するという作業に没頭した。

1Next

年間購読のお申込はこちら

ナショナル ジオグラフィック バックナンバー