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特集

シリーズ 地球のいのち
マンタ

OCTOBER 2009


 狭いハニファル湾では、マンタも技に磨きをかける必要があるようだ。スティーブンスは、研究者たちがめったに観察したことのない、ある行動を目撃した。50匹を超すマンタが連なって食事をしていた時、先頭のマンタが最後尾のマンタの後につき、らせんを描くように泳ぎ出したのだ。「サイクロン型採餌(さいじ)と呼んでいます」とスティーブンス。「100匹を超えると、円は大きくなりすぎて崩れます。“食卓”は大混乱ですね」

 整然とした“饗宴の舞い”は、何百匹ものマンタが体をぶつけ合う乱闘へと一変する。この混乱に拍車をかけるのが、餌の分け前をいただこうとやって来るジンベエザメだ。体長が10メートルを超すこの茫洋(ぼうよう)とした巨人もまた、プランクトンを食べて生きている。

 数時間のうちに、プランクトンは食べ尽くされ、饗宴は終わりに近づく。すると、マンタは海底の砂を頭鰭(とうき)と呼ばれる頭部のひれで掘り起こし、隠れていたプランクトンを水中に追い立てて食べる。

 その昔、角(つの)のような頭鰭のおかげで、マンタは「悪魔の魚(デビル・フィッシュ)」と呼ばれていた。巨体とコウモリのような体形が謎と恐怖のオーラを一層強め、彼らは「どう猛な怪物」とそしられた。そんなイメージが変わったのは1970年代のこと。スキューバダイバーたちが、マンタは温厚な生物であることに気づいたのだ。

 マンタは、今ではダイビングの呼び物となっている。ダイバーは彼らと一緒に泳ごうと、過度に接近してしまいがちだ。それでも絶滅が危惧(きぐ)されるマンタにとって、近年の人気が救いの手になるかもしれない。マンタは繁殖率が低いため、乱獲の影響を受けやすいが、観光業によって経済的恩恵がもたらされるなら、地元の人はマンタを殺すより保護しようと考えるだろう。しかし、ダイバーがあまりにも増えれば、マンタはハニファル湾のような採餌場所を追われることにもなりかねない。

 スティーブンスはマンタの個体識別を続けている。彼は斑紋の違いを基準に、これまでに1500匹以上を見分けてきた。サイクロン型採餌が観察された日時や状況も正確に記録しているが、これは地元のツアーガイドにとって極めて価値の高い情報になるだろう。

 ハニファル湾がダイバーで溢れかえる前に、地元のリゾート施設やツアーガイドが参加する自己管理システムを立ち上げたいと、スティーブンスは躍起になっている。「いまの状態を失いたくないんです」と、彼は言う。この計画が実れば、ハニファル湾は円を描いて餌を食べるマンタたちの聖域であり続けるだろう。そこにはジンベエザメを、そして人間を迎え入れる余地も残されているはずだ。

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