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絶望のソマリア

SEPTEMBER 2009


 青年と別れてから1時間もしないうちに、取材の仲介役の電話が鳴った。キスマーヨがアル・シャバーブの手に落ちたという連絡だ。これで彼らはふんだんに武器を調達できるわけだ。

悪魔の誘惑

 漁師のモハメドは、アル・シャバーブに加わらないかと誘われたことがある。仲間になれば約1万5000円の前金が支払われ、さらに毎月同じ金額が支給されるという。彼は明確な返事はせず、家族に相談した。

 一家は何年も魚とトウモロコシで何とか食いつないできた。それだけの収入があれば、生活は大きく変わる。この地獄のような都市では、アル・シャバーブは最高に実入りのいい“就職先”だ。しかも、何一つ確かなものがない状況下で、進むべき道を示してくれる。一家は何週間も話し合った。モハメド自身も苦悶した。だが、加わった友人たちはほとんど、国外に送られたか、逮捕されたか、殺されてしまった。どんな大義よりも、この事実を考えて、彼は誘いを断ることに決めた。

 「いったん入ったら、抜けられないんです」と父親は語る。「息子の仲間たちは、二度と帰ってこなかった。息子は海に出て、魚を捕っていればいい。そのほうがましですよ」

外国人記者が拉致される

 私たちの身に直接危険が及んだのは、滞在8日目のことだった。

 土曜の朝、武装した護衛を何人も乗せたSUV(スポーツ用多目的車)2台で、モガディシオの南にある海岸沿いの都市、マルカに向かった。両都市を結ぶ100キロほどの道路は、ほぼ全線アル・シャバーブの支配下にあった。このため、取材にあたっては仲介役を通して武装勢力と粘り強く交渉する必要があった。

 モガディシオの市境を越えたら、政府軍が差し向けた護衛は私たちの車を下り、代わりに武装勢力の護衛がつくことになっていた。こうした安全策をとるには、先立つものが必要だ。幸い、私たちには十分な取材費があった。だが、数キロ後ろを走っていた二人の外国人記者は、それほど好運ではなかった。

 二人はオーストラリアとカナダから到着したばかりの若手のフリーランス記者で、熱意にはあふれていたが、経験と現金はあまりもち合わせていなかった。彼らは仲介役に頼み込み、私たちと同じ道路で、モガディシオから約16キロ離れた国内避難民のキャンプを訪れる予定だった。政府軍の護衛には金を払ったが、武装勢力には付け届けをせず、最後の数キロの安全は確保できていなかった。一か八かのその行動が、悲劇的な結果につながったのだ。

 幹線道路には難民があふれ、木炭を満載したトラックが何台も連なって走っていた。途中、仲介役の男が電話で何度か確認したが、二人の記者の足取りはつかめなかった。状況がわかったのは、私たちがマルカに到着した後だった。アル・シャバーブの一員から、二人が拉致されたという連絡があったのだ。一人につき1億円相当の身代金が要求されるらしい。

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