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Q:チーターの違法取引が横行しているアフリカ東部のソマリランド。ソマリアからの分離独立を一方的に宣言しているこの共和国が位置する半島一帯は何とよばれているでしょう?

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絶望のソマリア

SEPTEMBER 2009


世界で最も不安定な国

 アデン湾からインド洋に出る航路にあたるソマリアの北岸は、欧州とアジアを結ぶ海運を狙う海賊の拠点だ。昨年、私が訪れたときにも、ソマリア沖で多数の船舶が被害に遭っていた。

 だが、危険きわまりないこの海域よりもさらに危険なのが、国内の状態だ。2006年、成立して間もないイスラム政権を倒すため、エチオピア軍が介入し、暫定政府を擁立したが、2009年1月に駐留軍は撤退。その後の混乱に乗じて、国外から新たにテロリストや民兵が流入し、ソマリアは地球規模の“聖戦”を掲げるテロ組織の拠点となった。

 米国の調査・研究機関ファンド・フォー・ピースが毎年発表する「破綻国家指数」ランキングで、この国は2年連続で世界一不安定な国という不名誉な座に就いている(92ページ)。だが、そんな順位を見ただけでは、国民の置かれた悲惨な現実はわからない。

 家を追われた人は膨大な数に上る。ケニアやイエメン、あるいはソマリアからの分離独立を宣言した北部のソマリランドの難民キャンプに逃れた人たちは、まだ恵まれている。国内避難民となり、国内のキャンプに収容された人々は100万人以上。一方で、モガディシオ市内に残っている市民も多い。

 現在のモガディシオは一見すると、典型的なアフリカの都市のようだ。おんぼろの自動車やラバの引く荷車、ヤギなどが、穴だらけの道路を行き交う。市場には色鮮やかなマンゴーやバナナ、欧米から流入したさまざまな中古品が並ぶ。スカーフをかぶったイスラム教徒の女たちや、カートの葉をかむ男たちが通りを歩き、少年たちはサッカーボールを蹴って遊ぶ。

 だが、無残な残骸と化したかつての銀行や大聖堂、高級ホテルが立ち並ぶ光景が、恐ろしい現実を物語っている。以前のモガディシオは“典型的なアフリカの都市”などではなく、息をのむほど壮麗な都市だった。破壊し尽くされた今でも、往時の面影をとどめている。とりわけ、ハマルウェイン地区はそうだ。

 写真家のパスカル・メートルと私は人通りのない大通りにたたずんで、瓦礫の向こうの海を眺めた。やがて近くのモスクから、祈りの時間を告げる声が聞こえてきた。もう午後5時近い。5時を過ぎると、外には誰もいなくなる。日が暮れてから通りをうろつくのは、自分から災難を呼び寄せるようなものだ。

 灯台でモハメドに会ったのは、宿に引き揚げる直前のことだ。私たちに気づいて、彼はいったん物影に隠れたが、しばらくして姿を現すと、せきを切ったようにしゃべり始めた。「祖国から逃げようとは思わない。難民にはなりたくないよ。ここで死ぬ覚悟はできている」

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