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特集

サケの楽園
カムチャツカ

AUGUST 2009


 ただ残念なことに、カムチャツカの豊かなサケ資源を取り巻くのは良い条件ばかりではない。ソ連崩壊後の不安定な経済や漁業管理政策、そしてその実施方法によって、サケの未来は両極端に振れる可能性があるのだ。

 カムチャツカのサケは今後10~20年で、行き届いた天然資源管理と環境保護の代名詞として、漁業運営の手本となっているかもしれない。しかし一方で、資源保護の機会を無駄に浪費し、悲惨な結果を招いた21世紀最大の失敗例になる危険性もある。現状では、どちらに転んでも不思議ではないのだ。

 政治や経済を抜きにしても、サケの一生は苦難の連続だ。マルキ孵化場では毎春、1200万匹もの稚魚が放流される。この時、稚魚は孵化から数カ月がたち、10~15センチに成長しているが、成魚になるのは容易なことではない。ほとんどが旅の途中で死んでしまうのだ。

 マルキ孵化場から海までの距離は、およそ140キロもある。稚魚はまずブイストラヤ川を下り、もっと大きいボリシャヤ川との合流点に出る。そしてさまざまな危険を回避しながら川を下り進むうちに、海水に適応できるように変態し、やがてカムチャツカ半島の西海岸にあるボリシャヤ川河口から広大な海へと旅立っていくのだ。そこは、半島とロシア本土のあいだに広がる、凍てつくように冷たいが、栄養豊かなオホーツク海だ。

 種類によって異なるが、それから2~5年のあいだ、サケは海を回遊する。オホーツク海はもとより、さらに南下して太平洋まで遠征することもある。好物である小型のイカや甲殻類を求めて数千キロの旅をすることもあるだろう。だが海では、捕食されたり生存競争に巻き込まれたりするなど、過酷な環境が待ち受けている。海面に仕掛けられた、巨大な流し網に絡まることだってあるかもしれない。

 危険をかいくぐってひたすら泳ぎ、餌を食べて進むうちに、サケは脂肪を蓄え、大きく、たくましくなっていく。いったん海に出ると成長が早いのが回遊性の魚の強みだ。

 成熟したサケは子孫を残すため、磁気や偏光(電磁波など一定の方向にだけ振動する光波)を手掛かりに、生まれ故郷の川を目指す。河口までやってくると、川の匂いに導かれてボリシャヤ川に入り、かつて両親たちが旅したのと同じように遡上していく。そして、生まれ故郷のブイストラヤ川にたどり着くのだ。

 サケは一度に数千個もの卵を産むが、このタイヘイヨウサケは一度産卵したら死んでしまう。これは脊椎動物にしては珍しく、また北大西洋に生息するサケとも異なる特徴だ。

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