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特集

シリーズ 地球のいのち
華麗な生物の擬態

AUGUST 2009


 目的地に到着すると、ツチハンミョウの幼虫の群れは雌バチから離れて巣に住みつき、花のミツや花粉、さらに「最高のごちそう」であるハナバチの卵をむさぼり食って成長する。

 ずるがしこく相手をだます行為である擬態は、自然選択による進化の一例だ。過酷な生存競争を勝ち抜くために、生き物は生物学的に多様な特性を持つ子孫を残すが、そのほとんどが弱者に厳しい自然のおきてに負けて死滅する。だが、もしある個体の外見が少しだけ鳥のふんに似ていたことで、生き延びて繁殖できたとしたら、この幸運な外見上の特徴は子孫に引き継がれる可能性がある。ことによると、鳥のふんにもっと近い外見の個体が現れるかもしれない。数百世代を経てこの形質は同種のあらゆる個体に広がり、種全体の特徴になる。

自然選択による進化の結果

 擬態は、進化のプロセスがいかに場当たり的かを示す証拠でもある。例えば研究者のヒメナ・ネルソンとロバート・ジャクソンは英国王立協会紀要に、アリに擬態するアリグモについて報告している。攻撃的で強力なあごや針を持つアリは、生態系の多くで支配的地位にあり、多くの捕食者はアリを嫌う習性がある。アリグモはアリに擬態することで、その習性を利用する。ところで雄のアリグモは、雌に求愛するためには細長い口器を見せてアピールしなければならないが、口器が長いとアリに擬態した効果が損なわれかねないという基本的なところで問題を抱えている。そこで進化のメカニズムが働いた結果、妥協策が生まれた。雌グモは普通のアリに似ているが、長い口器を持つ雄は口に「荷物」をくわえて運ぶアリに似た姿になった。確かにハタラキアリは時々、強力なあごで荷物をくわえて運んでいる。

 いま、研究者が強い関心を寄せるのは、ある生き物が別の生物になんとなく似ているといった中途半端な擬態だ。この不完全な擬態は新しい擬態生物の分化、つまり擬態を高度化させていく進化の過程の始まりを示すのではないか。あるいは、擬態された側の生物がまねられるのを嫌い、擬態の効果を薄めるために形質を変化させ始めたのかもしれない。

 擬態はまた、交尾相手の異性や、同性のライバルへのアピール、仲間づくりなどの重要な手段になる。ザトウクジラは、ライバルの雄同士で歌をまねるようだ。一部のイルカはジャンプを模倣する。オウムは文字どおり「オウム返し」の名人だ。類人猿も「サルまね」という言葉があるぐらい模倣がうまい。オランウータンがホットケーキの焼き方を覚えたり、チンパンジーが道具を使って狩りができるようになるのはそのためだ。私たち人類も模倣の能力があるからこそ、互いにほめ合い、笑い合って喜びを分かち合えるのだ。

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