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特集

ベネチア
霧の中の未来

AUGUST 2009

文=キャシー・ニューマン 写真=ジョディ・コッブ

タリアの水の都ベネチアは、押し寄せる高潮と観光客に悩まされ、住民の数が減る一方。街は“テーマパーク”と化してしまうのか。

 古都ベネチア――華麗にしてドラマチックなイタリアのこの街では、迫り来る危機までもが哀愁を帯びて輝く。アドリア海の最奥部、外海と細長い砂州で隔てられた潟に浮かぶ水の都は、陸地でもなければ海でもなく、そのはざまで揺れる蜃気楼(しんきろう)のようだ。この街は、アクア・アルタと呼ばれる季節的な高潮の影響を受け、何世紀も前から水没の危険にさらされてきた。だが、それはベネチアが抱える数々の問題の中では、ごく小さなものでしかない。

 この街を高潮以上に悩ませる問題とは何だろうか。まずは、マッシモ・カッチャーリ市長に事情を聞いてみることにした。

 哲学教授でもある市長は、いささか気難しく、気まぐれな性格の人物で、ドイツ語、ラテン語、古典ギリシャ語に通じ、ソポクレスの悲劇『アンティゴネ』を現代イタリア語に訳した業績ももつ。そんな学識豊かな市長が、アクア・アルタとベネチアの冠水について聞かれると、「長靴を買いたまえ」とあっさり答える。洪水には長靴で対処できるというのだ。

 確かに長靴を履けば、水浸しになった通りを歩いても濡れずに済む。だが、街の冠水以上に住民を悩ませているもう一つの“洪水”には、長靴は役立たない。それは、洪水のようにベネチアに押し寄せる大量の観光客だ。2007年の統計で、ベネチアの人口は約6万人。一方、この年ベネチアに訪れた観光客は2100万人にのぼる。

 たとえば、2008年5月の祝日と重なった長い週末には、8万人の観光客が殺到した。まるで畑を襲うイナゴの大群のようだ。

 観光客は、ベネチアの市域に含まれる本土の町メストレの公共駐車場に車を停め、バスや電車で橋を渡って、島の観光スポットに向かう。だが、このときはメストレの駐車場が満杯になり閉鎖された。どうにか市の中心部に入れた観光客たちは通りにあふれ、ピザを食べたり、ジェラート(イタリア風のアイスクリーム)をなめたりした揚げ句、紙くずや空のペットボトルを残して去っていく。

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