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未知なる地底に挑む

JUNE 2009


 ジャガー洞窟に人間が初めて立ち入ったのは先史時代とされる。しかし、あまりに規模が大きいため、今でも、未知の地下通路や100万年ほど前にできた洞窟が発見される。

 探索を再開した私たちは、広大な洞窟にたどり着いた。ヘッドランプの光を最強にしても、周囲の壁はほとんど見えない。「右上を見て!」。ボボがそう言った。水に濡れた岩壁にヘッドランプを向けると、頭上の暗闇から1本のロープが垂れ下がっているのが分かった。私たちは1人ずつロープをよじ登り、ドーム状の洞窟の最上部に到達した。そして、傾斜した岩棚に沿って進み、別のトンネルへと入った。そこは立って歩けるほど広かったが、400メートルほど進んだところで、岩と泥の塊に行く手を阻まれた。天井が崩落していたのだ。

 この地点までは、誰かがたどり着いたことがある。わが探検チームは、この先にも通路が続いていると信じ、さらに奥へ進むことにした。既知の世界を超え、闇に包まれた未知の世界へ突き進もうというのだ。チームは地図製作班と掘削班に分かれ、私は掘削役を買って出た。

 掘削は一人ずつ行う。自分の順番になると、崩落個所の下にある狭い空間に腹這いになり、体を小刻みに震わせて、突き当たりまで前進する。首は頭上の岩で圧迫され、両脇は岩壁に押される。それでも私はショベルを前方に突き出し、必死で泥壁をつついた。

 30分後、1.5メートルほど掘り進んだところで、腕が痛くなり、全身が汗まみれになった。これ以上掘っても無駄だと諦めかけたとき、不意にショベルが反対側に突き抜けた。そして目の前に、天井の低い、三角形の狭い通路が見えたのだ。私は興奮して、この新しい通路に抜け出ようとしたが、胸がつかえて身動きが取れなくなってしまった。

 私は初めから、狭くて暗い空間に対する恐怖から逃れたい一心で穴を掘り続けていた。だが今、こうして身動きが取れなくなると、吐き気を催すほどの不安感に襲われた。必死で脚を動かしてみたが、抜け出せるどころか、逆に、泥に埋もれることになった。

 焦る気持ちを静めようとしたが、頭の中は頭上にある重さ数百万トンの岩のことで一杯だった。自分の喘ぎをなんとか落ち着かせようとした。呼吸をし過ぎると肺が膨張し、ますます身動きが取れなくなると教えられていたからだ。私は今まさに、過呼吸の状態だった。

 洞窟探検家たちは普通の人間とは違う。「私は閉所恐怖症にならないの。それどころか、顔の15センチ前に壁があると、とても気分が落ち着くわ」と、ボボは語る。身長160センチ、体重46キロのボボは、狭い箱の中をくぐり抜ける“スクイーズ・ボックス”と呼ばれる競技で、年齢・体重別のチャンピオンの座に3年連続で輝いている。洞窟探検家たちにはおなじみのスクイーズ・ボックスは、中世の拷問具のようにも見える。2枚のベニヤ板が、サンドイッチのように上下に重ねられ、その間隔を0.5センチ単位で調節できるようになっている。ボボは16センチの隙間をすり抜けることができるのだ。

“洞窟熱”の諸症状

 ヘルメットにグローブ、ひじ当て、すね当て、ひざ当て、強化ナイロン製のスーツをまとっていたにもかかわらず、ジャガー洞窟の探検から戻ったとき、ボボの体は擦り傷と打ち身だらけになっていた。「毎度のことよ」。彼女は平然とそう言った。「洞窟探検の愛好家はこんな傷など気にならないわ。それだけ、洞窟に夢中なの。頭の中にあるのは、洞窟に戻ることだけ。みんなこれを“洞窟熱”と呼んでいるわ。洞窟熱にかかっているかどうかは、目を見れば分かるの。独特の輝きがあるわ」

 ボボはこれまでに、700カ所以上の洞窟を探検してきた。背骨を折ったり、筋肉に裂傷を負ったり、指や足の骨を捻挫したこともあるし、低体温症で命を落としかけたこともある。だがボボが本当に痛みを覚えるのは、心ない人々に傷つけられた洞窟を目の当たりにするときだという。2001年に訪れた洞窟では、鍾乳石と石筍が根こそぎ持ち去られていた。

 「100万年もかかって生まれた自然の産物が、何百、何千と破壊されていたの。あまりの衝撃に、しゃがみ込んで泣いたわ」と、彼女は語った。「洞窟には独自の気候があって、ほかの場所では見られない貴重な生物が生息しているわ。それに、ジャガー洞窟で目にしたような、考古学上の発見もある」

 森の中にある秘密の入り口から懸垂下降で10メートルほど下り、縦横無尽に広がる洞窟に入った。ボボがいくつか生物を見つけた。青白く、やせ細ったカマドウマ科の昆虫や、体長2.5センチほどの、幽霊のように真っ白なドウクツギョ科の仲間、石炭のように真っ黒な体がねばねばする粘膜で覆われたヌメサンショウウオ。

 洞窟内を流れる広い川の岸辺では、先史時代のジャガーの足跡を調べた。3万5000年ほど前、洞窟から出られなくなった2頭のジャガーが残したものだ。それ以上に驚いたのは、古代の人類が残した274個の足跡だ。発見された場所は「先住民大通り」と呼ばれているが、現在、一般の探検家には公開されていない。およそ4500年前のこうした足跡は、北米の洞窟に残る、最古の人類の足跡である。

 破壊される現実を目の当たりにしたボボは、洞窟を守らなければという使命感に目覚めた。学校で溶接技術を学び、その後、洞窟用ゲートを制作していたロイ・パワーズに弟子入りした。鉄製のゲートは、鍾乳石などのほか、洞窟内の生物や考古学的な遺物を保護するために、開口部をふさぐように設置される。ボボは現在、全米屈指の洞窟用ゲートの専門家として知られ、州政府や連邦政府の依頼を受けて、これまでに50基以上を設置してきた。

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