/2009年6月号

トップ > マガジン > 2009年6月号 > 食料危機は克服できるか


定期購読

ナショジオクイズ

Q:世界初の実用的なカラー写真の技法、オートクロームで色を再現する際に使われた野菜は次のうちどれでしょう?

  • トマト
  • ジャガイモ
  • ニンジン

答えを見る



特集

食料危機は
克服できるか

JUNE 2009


緑の革命はインドを救ったのか

 人類はこれまで何度も食料危機を経験してきた。1943年に起こったベンガル飢饉もその一つで、400万人もの死者を出し、20世紀の大飢饉の一つに数えられている。以後20年間、インドは国民を飢えから守るために数百万トンもの穀物を輸入しなければならなかった。

 そんなインドを救ったのが、緑の革命だ。1960年代半ば、インドが相次ぐ干ばつで食料難にあえいでいた時期に、米国の農学者ノーマン・ボーローグが、小麦の高収量品種をパンジャブ州に導入しようと、この国の研究者と共同で開発を進めた。

 「この新品種は、神の贈り物でした」と話すのは、当時パンジャブ州農業局の副長官を務めていたグルチャラン・シン・カルカットだ。1970年までには、同じ労働量で、3倍近い収穫を上げられるようになった。「余剰の小麦の保管に困り、学校を1カ月早く休みにして、校舎を倉庫にしたものです」

 米国の農業州アイオワ出身のボーローグは、世界中の貧しい地域に新しい農業技術を広めることを使命としていた。彼が改良した小麦の短桿種(茎が短く丈夫で、穂がたくさんついても倒れない品種)は、それまでの常識では考えられないほど豊かな収穫をもたらした。

 ただし、そのためには、水と化学肥料をたっぷり与え、雑草という雑草を除去し、害虫を防ぐ必要があった。

 インド政府はこの条件を整えるため、用水路の建設、化学肥料の購入、灌漑用の井戸の掘削に補助金を出し、給水ポンプ用の電力を無償で供給した。

 この小麦の新品種はたちまちアジア全域に普及し、アジア中の農家が伝統的な農法から、化学肥料頼みの近代農法に切り替えた。ほどなく、コメでも「奇跡の新品種」が生まれる。新品種の穀物は生育が早く、年間2回収穫できた。パンジャブ州では現在、小麦、コメ、綿花の二期作が広く行われている。

 緑の革命の画期的な成果が認められ、ボーローグは1970年にノーベル平和賞を受賞した。だが、広大な畑で単一の作物を育てるために化学肥料や農薬を多用する農法は、環境に優しいとは言い難かった。

 パンジャブ州では、90年代半ば以降、収穫量はほとんど伸びていない。130万本もの井戸から水が過剰にくみ上げられたために、地下水位が大幅に低下。一方で、田畑が水浸しになったり、土に塩類が集積して、耕作不能となる土地が広がっている。過剰な灌漑、化学肥料と農薬の多用という農法を40年も続けた結果、パンジャブの土はひどくやせてしまった。

 人々には健康被害が出ている。ムクトサル県の人口6000人の農村ブッティワラを訪ね、村の長老のジャグシル・シンに話を聞いた。この村では、飲料水の汚染が原因で「この4年間で49人ががんで死んだ」という。

 シンの案内で農家を訪れた。乳がんの手術を受けた50歳の農婦は、自分の病気よりも7歳の孫を白血病でなくしたことのほうがはるかにつらいと話す。がんの多発が汚染によるものだという確実な証拠はない。だが、パンジャブの農民の血液や母乳、地下水、畑の野菜からも、農薬が検出されている。政府もこうした現状を無視できず、莫大な予算を投じて、被害の深刻な村々に浄水施設を建設している。

 健康被害だけではない。化学肥料と農薬のコスト負担は農家に重くのしかかり、多くの人々が借金にあえいでいる。元教師の村民は、「緑の革命は農家を破滅に追い込んだだけだ」と切り捨てた。

 異なる見方もある。米国オハイオ州立大学の著名な土壌学者でインド出身のラッタン・ラルは、緑の革命の技術そのものが悪いわけではないと考える。化学肥料と農薬を必要以上に使い、過剰な灌漑をするなど、誤った導入の仕方が多くの問題を招いたという。収穫後にわらなどを畑に残さないことも、土の栄養分が失われる原因となった。「水質汚染や水不足の問題はありますが、何億もの人々が救われたんです。人の命には代えられないでしょう」

 生産量の点から見れば、緑の革命の恩恵は否定できない。新品種が導入されて以来、インドでは一度も飢饉が起きていない。世界的に見れば、穀物生産は2倍以上も増えた。コメの生産量の増加分だけで、人口が7億人増えたとの試算もある。

 それでは、現在の食料危機を克服するにはどうすればいいのか。遺伝子組み換え技術を活用する第二の緑の革命に期待を寄せる農業関係者も多い。米国の農業バイオ技術の大手企業、モンサント社の最高技術責任者ロバート・フレイリーによれば、トウモロコシと大豆のゲノムの塩基配列の解読はほぼ完了し、4、5年前までは想像もできなかったような技術が生まれてきているという。遺伝子組み換え技術を使えば、高収量で、化学肥料の使用が少なくてすむ、干ばつに強い新品種を開発できると、フレイリーは考えている。

Back3next

年間購読のお申込はこちら

ナショナル ジオグラフィック バックナンバー