![]() 記事ランキング |
||
マンモス解剖 MAY 2009 特集ラインアップ |
![]() 文=トム・ミューラー 写真=フランシス・ラトレイユ シベリアでほぼ完全な姿で見つかった冷凍マンモス「リューバ」。CTスキャンなど最新技術を使ってその生態、死因を探った。赤ちゃんマンモスの死 雪解けで水かさを増した川。 そこへ向かって歩みを進めるマンモスの群れ。1頭の赤ん坊が、母親の大きな脚にまとわりつきながら、必死に集団についていく。頭上には青い空が広がり、乾いた風が草原を吹きぬける。ここは氷河期の草原地帯。当時はこうした風景が、シベリアから北米まで1万8000キロにわたって続いていた。 長かった冬は、ようやく終わった。辺りには湿った土の匂いがたちこめ、鳥たちのさえずりが響きわたる。 日差しのぬくもりが、母マンモスを油断させたのだろうか。ほんの一瞬、母親が注意をそらしたすきに、赤ちゃんマンモスは群れから離れてしまった。そして、どんどん水辺に引き寄せられていった。 ぬかるんだ川岸の土は滑りやすい。小さなマンモスは足をとられ、ぬかるみにずぶずぶと沈んでいった。もがけばもがくほど深みにはまる。口と鼻、さらには目まで泥に埋まった。赤ん坊は息苦しさにもがいた末、吸い込んだ泥が気道に詰まり、肺に空気がいかなくなった。 母マンモスが、異変に気づいて川岸に駆けつけた。だが、もはや手遅れだった。赤ん坊は冷たい泥に半ば埋もれながら、弱々しく鼻を振って、今にもこと切れようとしていた。母マンモスは、沈んでゆくわが子をなすすべもなく見守るしかなかった。 |