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特集

渇くオーストラリア

APRIL 2009


 少なくとも、干ばつが終わるまで状況は変わらないだろう。アドリントンは現在、大切な家畜を売って食いつないでいる。「落ち込むなといわれても無理さ」と語る口調は、落ち着いているものの、生気に欠けていた。

 干ばつがアドリントンから奪ったのは、豊かな土壌だけではない。妻とは口論が絶えず、子供たちにも怒鳴ってばかりだ。ガソリン代がまかなえないので、以前のように妻を町に連れて行ってやれない。近隣の牧場が廃業し、半径15キロ以内に息子の遊び友達がいなくなった。アドリントンは現在、祖父の代から受け継ぐ土地を売りに出しているが、まだ問い合わせはないという。できれば売りたくないが、背に腹は代えられない。7年続くこの干ばつは、父や祖父が経験したことのない事態なのだから。

 酪農場見学会は3年前に行われたきりだ。最近は、景気づけの催しばかりが開かれる。今日、アドリントンの妻が参加しているのは「1日だけのぜいたく」と題したイベントだ。農家の女性たちを集めてマッサージや爪の手入れといったサービスを無料で提供する。そこで、州政府から派遣された担当者がお茶を出し、彼女たちの話を聞く。具体的な内容こそ違うが、どれも干ばつにまつわる話ばかりだ。

 「2年前から収穫がなくなったわ」
 「うちの農場はもう限界よ」
 「20年間も大切にしてきたヒツジを、ほとんど売ってしまったの」
 「おなかをすかせたウシの鳴き声が、毎晩、寝室まで聞こえてくるの。耐えられないわ」

 しかし、ビクトリア州北部スワンヒル近郊の果樹園では、もっと切実で深刻な話が進行していた。州政府の財務カウンセラーが、園主の中年夫婦に破産宣告を勧めている。借金の額が果樹園の価値を上回り、そのうえ雹が降って、作物が壊滅的な損害を受けたのだ。

 園主は妻の手を握り、涙を流しながらやっとのことで声を絞り出した。「この先、どうやって生きていけばいいのでしょう」。妻は、夫が果樹園で拳銃自殺するのではないかと不安で、2時間おきに様子を確認するという。話し合いの後、カウンセラーは夫婦の名前を、自殺する恐れがあるとして監視リストに加えた。

歴史的な大干ばつ

 場面は再びバーラムに戻る。酪農家のアドリントンはまだ、トラックを動かさないでいた。ここでは、牧草地が干上がり、ウシが減っていくのを見ている以外、なすすべがない。

 ほかの大陸に比べて、オーストラリア大陸は乾燥が激しく、もともと水が決定的に足りない。オーストラリア人は昔から乾燥と闘ってきたが、7年続くこの干ばつは、記録が残る117年の歴史上、例のない規模で起きている。たまには雨も降るが、作物の植えつけ期には当たらず、東北部のクイーンズランド州の町が水浸しになるだけだ。こうした不安定な降水パターンを引き起こしているのは、人為的な要因による気候変動だといわれている。

 さらに、地球温暖化はオーストラリアの干ばつをはじめとする自然災害の増加や深刻化の要因となっていると考えられている(60ページの「豪雨vs干ばつ 暴走する雨」参照)。意見はさまざまだが、争う余地のない事実もある。「15年前と比べて気温は0.75℃上昇し、水の蒸発に拍車がかかっています。これが気候変動の正体なのです」と、オーストラリアの環境科学者ティム・ケリーは言う。

 オーストラリア人がこの現実に気がつくにはかなりの時間がかかった。本来、荒れ地などをものともしない人々が築き上げてきた国だ。科学者ティム・フラネリーによると、オーストラリアの土壌は、過去100万年間、氷河の影響をまったく受けることがなかったので、生態系が“低栄養状態”にあるという。だが、半乾燥気候の広大な平原であるマレー・ダーリング盆地は、19世紀半ば頃には比較的豊かな雨に恵まれていた。

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