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特集

カナダのオイルサンド

MARCH 2009

文=ロバート・クンジグ 写真=ピーター・エシック

ナダでは、油成分を含む砂「オイルサンド」の大規模な採掘が進む。富も環境汚染も生む、この新たな燃料資源の実態に迫った。

カナダのオイルサンド
オイルサンドの採掘は、カナダのアルバータ州に大きな変化をもたらした。様変わりした大地の姿や、現地の人々の声を伝えるビデオを見て、オイルサンドを取り巻く現状について学ぼう。

動画翻訳

カナダ北部に広がる荒野の下には富を約束する資源が眠っている
砂岩層に含まれる油分を精製するとガソリンなど石油製品になるのだ

「カナダのオイルサンド」変わり果てた大地を見て 泣きました
セリーナ・ハーパー先住民長老(アルバータ州フォートマッケイ)
たった1本の枝木さえなく見渡す限り砂地が広がっています
何も残っていないのです
オイルサンドの埋蔵量は膨大なためあらゆる所に仕事があります
ブレンダ・ハンプソントラック運転手
アルバータ州では一人につき10もの働き口があるんです
マリフェ・バルデラマ(環境専門家 ダンスインストラクター)私たちは家族からはるか遠く離れています
マックス・ノズワーシー(ミュージシャン 足場の責任者)家賃 食料 燃料 ここでは何もかもが高価です

ピーター・エシック(写真家)
私はナショナル ジオグラフィック誌の写真を22年間撮り続けてきました
どの特集の仕事も難しいものですが
今回の特集はこれまで取り組んできた中でも最も困難なものの一つでした
被写体に接近することが非常に難しかったのです
ピーター・エシックは2カ月間取材をし露天掘りによる影響を詳細に記録した
開発はアルバータ州北部の針葉樹林が広がる荒野で行われています
採掘場の労働者たちが大勢住んでいるフォートマクマレーの街では
開発によってもたらされた良い面もあれば弊害も生じています
このためそれぞれの人により異なる意見を聞くことができます

オイルサンドに引き寄せられてアルバータ州に世界中から労働者が集まってきた
原油価格の高騰によりフォートマクマレーは好況に沸いている
シルヴィア・トンプソン(救世軍 フォートマクマレー)この街は大きく変わりました
以前は3万4000~5000人程度だった人口が現在では10万人に増えています
新しいチャンスや よりよい生活を求めてフォートマクマレーにやって来ました
故郷の町にいた頃よりたくさんお金を稼ぎたいんです
ほとんど毎日働いているうえに家庭生活もあるのでとても忙しいですね
時々すごく疲れますが頑張るだけの価値はあると思います
一年のうち半分は冬なのでここに住むのは大変です
私は夫と子供たちと一緒に暮らしていますがほかの家族はみんなベネズエラにいます
フォートマクマレーの地域社会はとても居心地がいいです
友達もたくさんいますし寂しさは感じません
休暇を取るのはとても難しいです
帰省したら仕事でどれくらい遅れをとるかと考えてしまいます
この部分は汚れやすいのですがきれいにしておくことが非常に重要です
集中して仕事に取り組もうと思うなら社交的な生活は期待しないことですね
時々 ビールや朝食に誘われますがとにかく時間がありません
あるのは眠って起きる時間だけです

アサバスカ川に流れ込む廃水は懸念事項のひとつです
露天掘りは 経済的な利益をもたらすと同時に周辺地域の環境に大きな被害を与えている
石油会社の採掘場から出る有害な化学物質がアサバスカ川に流れ込むのを危惧する人々もいる
アラン・アダム酋長アルバータ州フォートチペワイアン
この地域で起きたことの責任の一端は先住民の私たちにもあると思います
オイルサンド業界の人々がやってきて先住民にもたらす様々な利点を挙げたため
私たちは彼らの事業を是認し続けてきたのです
フォートマクマレーには何十億ドルもの資金が投じられているのに
先住民に全く利益が還元されない現実には胸が痛みます

私は 生まれてからずっとこの川沿いに暮らしてきました
ここから離れられたらいいのですが家族がいますし――
私はもうすぐ70歳になります
いまさら 家族を残して別の場所へ移ることはできません
先住民長老のセリーナ・ハーパーは石油業界を声高に非難している
彼女の家はアサバスカ川沿いに位置しておりサンコア社やシンクルード社の採掘場の下流にある
スカンクの悪臭や腐った卵のような臭いがします
シンクルード社やサンコア社の人と面会したとき
私は アサバスカ川の水を彼らに差し出し飲むように勧めました
彼らは水を飲みませんでしたそこで 私はこう言ったんです
“あなた方が飲もうとしない水を私たちには飲めと言うんですか?”
私たちの暮らしは 壊されてしまいました石油産業によって奪われたのです
石油会社からは何の補償も受けていません
残されたのは深い悲しみと後悔だけです
現時点では 環境や水についての状況は少しも改善されていません
それでも 私たちは政府に対して圧力をかけていきます
そうすれば 政府は廃水の処理方法に関して何らかの規制を設けざるを得なくなるでしょう
時間はかかりますが重要で不可欠な過程です
初めてオイルサンドの採掘場を空から見たときとてつもない規模に衝撃を受けました
ヘリコプターに乗りこみ森林と荒野の上空を15分ほど飛ぶと
突然 目の下に広がる土地が緑から茶色に変わるのです
空中からそれを見ると本当に巨大な規模だと実感します
私たちが上空150メートルほどの採掘場から非常に近い空中に停止していると
時々 採掘場の警備担当者が電話してきて“なぜ撮影をしているのか”と尋ねました
今回の特集で取り上げた問題の核心は
森林が切り倒され削り取られて大地が動かされているという現実です
オイルサンド産業は環境に影響を与えているどころか
環境を 全く異なるものに変えてしまっています
残ったのは 冒とくされた風景です

 黒くて粘り気が強く、冷えると固まるタール状の油。そんな扱いにくい物質を含んだ砂岩が、オイルサンド(油砂)だ。大量の水と燃料を使って砂から油を抽出すれば、ガソリンなどの原料となる「合成原油」をつくれるが、かつては生産コストや環境負荷の高さから採掘が見送られていた。だが、近年の原油の需要増と価格高騰で、原油に代わる資源として開発が本格化している。広大なオイルサンド鉱床が横たわるカナダのアルバータ州で、その実情を追った。

 アルバータ州北部を流れるアサバスカ川の近くに、先住民居住区の一つ、フォートマッケイがある。ここで生まれ育ったチペワイアン族のジム・ブーシャは、1963年のある日の出来事をはっきり覚えている。

 当時7歳だったブーシャはその日、祖父に連れられて、村の数キロ南の森に仕掛けておいた狩猟用の罠を調べに行った。この森は、カナダの国土の3分の1以上を占める北方針葉樹林の一部で、当時はまだほとんど開発の手が及んでいなかった。州政府が砂利道を整備するのは何年も先のことで、当時この村に向かうには、ボートか、冬場は犬ぞりしか交通手段がなかった。


 フォートマッケイに暮らす先住民、チペワイアン族とクリー族は、外界からおおむね孤立して暮らしていた。ヘラジカやバイソンを捕らえ、アサバスカ川で魚を釣り、森でクランベリーやブルーベリーの実を集めるという伝統的な狩猟採集生活をする一方で、ビーバーとミンクを罠で捕獲し、毛皮を売って現金収入を得ていた。フォートマッケイは小さな毛皮の交易地で、当時は電気もガスも水道も電話もなかった。村にこうした文明の利器が入ってきたのは1970、80年代になってからだ。

 とはいえ、少年だったブーシャが変化を肌で感じるようになったのは、1963年のその日、ミルドレッド湖近くの、祖父がよく罠を仕掛けていた動物の通り道に着いたときのことだった。「こうした道は、何千年も前からあったものです」。昨年の夏、フォートマッケイにある広々としたオフィスで、ブーシャは話してくれた。

 「ところがその日行ってみると、いきなり森が開けて、目の前に広大な伐採地が広がっていました。70年代になると開発がさらに進み、祖父の丸太小屋も取り壊されてしまいました。事前の通告も話し合いも、一切ありません」

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