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特集

シチリア島の
「死者の待合室」

FEBRUARY 2009


遺体を乾燥して保存する風習があるのは、欧州ではシチリアぐらいだ。イタリア国内のほかの地域にも例はあるが、ミイラの大半はシチリアに集中している。この島では、生者と死者との関係がとても強い。こうした遺体が実際にどれぐらいあるかは不明だ。ほかにも、信者の肉体を保存するのはキリスト教の教義に反すると考えた聖職者が、何体もの遺体をカタコンベから別の墓地に移している。いずれにせよ、シチリアのミイラを目にすると、なぜこんなことをするのか、なぜ朽ち果てた肉体を人目にさらすのか、といった疑問が思い浮かんでくる。

 欧米では死体を目にする機会はあまりない。死者は埋葬用の布に包まれ、生者から隠されるのが普通だ。人の死に間近に接して、私は恐れと興味を同時に感じながら遺体を観察した。

 すると生者と死者の大きな違いに気がついた。死者はすぐ近くでじろじろ眺めても、生者のように気分を害したりしない。遺体は口を開き、声にならない叫びを上げている。威嚇するように朽ちかけた歯をむき出し、眼窩から悲しげな視線を送っている。くぼんだ頬と節くれ立ったこぶしには、硬くなった皮膚の断片がこびりついていた。ほとんどの遺体は小柄で、腕を十字に組んでいる。直立したまま体形を維持するために針金と釘で固定されているが、前屈みになって頭を肩の方にだらりと傾けている。

 いくつかある回廊の遺体は、聖職者と、医者や法律家のような専門職とが分けられていた。専門職の回廊には、憲兵隊の軍服を着た兵士も2人いる。威厳のあるその姿は、芝居に出てくる兵隊のようだ。

 女性の遺体だけを安置した回廊では、かつての女性のファッションを楽しめると、ガイドが言った。だが、骸骨は薄汚れたぼろ布で覆われ、服の色が抜けて暗い灰色になっていた。これでは、楽しむどころの話ではない。

 次は幼児が葬られている小さなチャペルだった。よそ行きのおしゃれをした子どもたちが立っている姿はゾンビの人形のようだ。ある子供は椅子に座り、小さな骸骨をひざに乗せている。弟か妹だろうか。耐えがたいほど痛々しいと同時に、滑稽でグロテスクな光景だ。

 シチリアのカタコンベは、考古学者の手で発掘されたローマのカタコンベなどとは違う。ここに眠る遺体は、見られることを前提に安置されている。実際、修道院は見学者から少額の「鑑賞」料金を収集する。施設内には、死者に敬意を払うようにという表示や、写真の撮影を禁じる注意書きもあるが、修道院自体が写真を売っていて観光名所になっている。

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