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空を彩る妖精
ハチクイ

FEBRUARY 2009


 ヨーロッパハチクイを45年以上にわたって研究している英国の鳥類学者C・ヒラリー・フライは、「越冬地への旅には、大きな危険が伴います」と話す。多くの群れが地中海を通過するが、その時、自分のヒナの餌にしようと待ち構えるエレオノラハヤブサに狙われるというのだ。「ヨーロッパへ帰る翌春までに、少なくとも3割のハチクイが、捕食者の攻撃やほかの要因で命を落とします」

 無事にアフリカへ到着したハチクイたちは、すぐにパートナー探しに取りかかる。雄は自分の群れにとどまるが、雌は遠隔地のグループに遺伝子を伝えるために、群れを去る。スペイン生まれの雄がイタリア生まれの雌に出会い、ハンガリー生まれがカザフスタン生まれに出会って、一生を添いとげる“夫婦”となる。

 4月になると、彼らはヨーロッパへと戻っていく。1歳を超えた雄たちは、“新婦”を連れて生まれ故郷に戻り、砂岩の崖や砂まじりの川岸などに巣を構える。長さ1.5メートルほどの巣穴の直径は約7センチ。楕円形のトンネル状だ。ほかのハチクイが以前に掘った巣穴がいくつも残っているが、そちらには目もくれずに、自分で新居を掘る。休むことなく、時には20日間ほどもかけ、くちばしで地面をつついては削り、最終的には重さ7~12キロ分の土をかき出す。その結果、くちばしが2ミリもすり減るという。

 巣づくりの季節には、協力し合う家族や悪巧(わるだく)みを働くよそ者の姿が見られる。ハチクイ科には25種のハチクイが属しているが、いずれも繁殖において協力し合う。ハチクイの群れには、自分の父親や兄弟のヒナの子育てを手伝う雄、「ヘルパー」がたくさんいるのだ。ヘルパーがいれば、親鳥たちはヒナにより多くの餌を与えられるし、ヒナが無事に育って、家族の遺伝子が受け継がれれば、ヘルパーにとっても有益なはずだ。成功の秘訣はもちろん、働き手の確保。ヨーロッパハチクイたちは、自然の事故などで自前の巣穴を失った雄たちのなかから、ヘルパーを見つけることが多い。

 営巣地の周辺では、「想像し得るかぎりの悪事が行われます」と、フライは言う。餌を探しに母鳥が巣穴を空ければ、ほかの雌がこっそり忍び込んで卵を産み落とし、自分のヒナを育てさせる。さらに、雄が無防備に出かければ、ほかの雄がチャンスとばかりにやってきて、妻と交尾してしまうこともある。あるいは、強奪を働くハチクイもいる。たとえば、昆虫をくわえて帰ってきた隣人に嫌がらせをし、たまりかねて落とした獲物を奪い取って逃げる、といった手口だ。

 ヨーロッパハチクイは、長生きしてもせいぜい5~6年。ハヤブサの攻撃をかわしながらの過酷な渡りは体力を激しく消耗するし、時に傷を負うこともあるからだ。さらに最近は、状況が悪化している。農業用殺虫剤が原因で獲物の昆虫が減少し、コンクリート護岸の河川が増えて繁殖地を失いつつあるのだ。それでも、その生涯は輝かしく、冒険に満ちている。

 「生息する地域ではよく見られる、ごくありふれた鳥です」と、多くの鳥類ガイドは言うが、この奔放かつ美しい鳥に、「ありふれた」という形容詞は似合わないだろう。

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