/2009年2月号

トップ > マガジン > 2009年2月号 > 特集:北朝鮮からの逃避行


定期購読

翻訳講座

ナショジオクイズ

クズリというこの動物で正しいのは?

  • イタチ科
  • クマ科
  • スカンク科

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

北朝鮮からの逃避行

FEBRUARY 2009

文=トム・オニール 写真=張乾琦

由を求めて、北朝鮮から中国に渡った3人。ラオス、タイを経て「南の祖国」をめざす旅の途中には、幾多の困難が待ち受けていた。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との国境から約15キロ離れた中国の町、延吉。みすぼらしいアパートの窓の外には、11月の寒気が迫っている。4階まで上ってきた足音が、ドアの前で止まった。足音を耳にした二人の若い娘は奥の部屋に駆けこみ、壁を背にしてうずくまった。

 やがてドアにノックの音がした。北朝鮮を脱出してきた、いわゆる“脱北者”の彼女たちは、首をうなだれ、最悪の事態を覚悟した。身分証明書も持たずに中国の警察に見つかったら、たちまち逮捕され、強制送還されてしまう。ひとたび北朝鮮に戻れば、刑務所で何年にもわたる過酷な労働が待っている。

 インターネットのポルノサイトを運営する朝鮮系中国人も、彼女たちを探していた。二人の女性脱北者「赤」と「白」(いずれも警察に拘束された場合に備え、取材メモで私が用いていた仮名)は1年ほど、この元“雇い主”のもとで閉じこめられて、韓国のサイト利用者とみだらな会話を交わしたり、カメラの前で裸になったりするよう強いられてきた。昨晩、二人はキリスト教の宣教師たちに助けられて逃走し、この隠れ家に連れてこられたのだ。

 ノックの音はやまなかった。
 「そこにいるんだろう。開けてくれ」
 白には声の主がわかった。自分たちを救い出してくれた男たちの一人だ。彼女はドアに駆け寄り、慣れない手つきであわてて鍵を開けた。戸口にはやせた男がぎごちない笑顔で、米の入った袋と炊飯器を持って立っていた。

 「腹が減っているだろうと思ってね」
 女たちは礼を言うと、男を台所に案内した。やがて、にぎやかに話がはずむ。宣教師は預かってきたメッセージも伝えた。「合図が来た。すぐに出られるように支度をしておいてくれ」

1Next

年間購読のお申込はこちら

ナショナル ジオグラフィック バックナンバー