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北極探検
二つの物語

JANUARY 2009

文=ハンプトン・サイズ

19世紀末、ノルウェーの科学者フリチョフ・ナンセンは大胆な探検を企てた。凍てつく北極海に木造の帆船で乗り出し、あえて海氷に閉ざされることで、氷の流れを利用して北極点までたどり着こうというものだ。だが、計画通りに事が進まないことを悟ると、ナンセンは助手をともない、船を降りた。そして、犬ぞりで前人未到の地へと滑り出したのだ。

 北欧ノルウェーの海に突き出た岬に、歴史を彩ってきた数々の船が保存、展示されている。ここは、首都オスロの中心部から、切り立ったフィヨルドをフェリーでわずかに進んだビグドイ地区にある博物館だ。細長い古代のヴァイキング船や19世紀に活躍した漁船、さらには古代の太平洋の航路を証明するために造られた有名なコン・ティキ号までが展示されていて、すべてを見るには数日かかる。

 なかでも目を引くのは、海岸線のすぐそばにそびえる、ガラスと鋼鉄でできた展示棟だ。尖った屋根の建物に入ると、天井から差し込む光を浴びて、1892年に建造された木造帆船、フラム号が静かに眠りに就いている。

 ノルウェー語で「前方」を意味するフラム号は、この国の長い海事史でおそらく最も有名な船であり、極地探検を象徴する存在といえる。現在、展示棟に保存されているフラム号を見ても、この船が極寒の海で壮絶な航海を耐え抜いたことを想像するのは難しい。しかし、その航海は近代ノルウェーを代表する冒険談であり、100年以上が経った今も、ノルウェーの人々のアイデンティティと深くかかわっている。

 フラム号の建造には、当時の先端技術の粋が集められた。補強された船体は北極海の氷に閉ざされたまま、3年間も持ちこたえたほどだ。フラム号は、それまでどんな船も到達できなかった、凍てつく極北の海の奥深くへ進んだ。危険きわまりない航海を率いたのは、聡明で物静かな科学者で探検家でもあったフリチョフ・ナンセンだ。彼こそは、近代の極地探検のパイオニアであり、後に登場するピアリやスコット、アムンセンといった探検家たちは、ナンセンの追随者にすぎない。彼は現在も、ノルウェーを代表する偉人として敬愛されている。

 極地探検の黄金時代には、名声だけを目当てにする探検家たちが数多く現れた。しかし、ナンセンはそんな安っぽい探検家ではなかった。大胆な探検に挑む一方で、彼は幅広い知識を備える教養人だった。才能ゆたかな著述家にして依頼が殺到する講演家、一流の動物学者にして高名な外交官でもあった。少なくとも五つの言語を流暢にあやつり、写真撮影に長じ、みごとな地図や図版を制作し、さまざまな科学者と多くの書簡を交わし、その正確な知識をあらゆる探検に役立てた。

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