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黄金の魔力

JANUARY 2009


「有事の金」の現実

 黄金の魅惑的な輝きは、何千年も前から、人々をとりこにしてきた。人は金をめぐって争い、他国を侵略し、帝国を築いて金貨をつくり、山をならし、森を切り開いた。金は人間の生存に不可欠なものではなく、むしろ用途はごく限られている。それでもほかの金属に比べてずば抜けて密度が高く、成形しやすく、まばゆい輝きをもつ金に、人は美と富と不死を重ねあわせ、のどから手が出るほどほしがってきた。

 そんな金への執着は、現代でも健在だ。もちろん、金が永遠の生命をもたらすと信じる者はさすがにいなくなったし、金を貨幣価値の裏付けとする金本位制も完全にすたれた。それでも金の魅力は失われるどころか、先行き不透明な世界情勢も手伝って、ますます輝きを増している。

 2001年9月10日に1トロイオンス(約31グラム)当たり271ドル(約2万6000円)だった金の価格は、翌日の米同時多発テロを境に上昇し始めると、2008年3月には1023ドル(約9万7000円)に達した。2007年の金の需要は、生産量を59%も上回った。「有事の金」と言われることもある安全資産としての役割に、再び注目が集まったのだ。

 最近では、資産運用の手段として金に関心を寄せる投資家も増えてきてはいるが、金の需要の3分の2を占めるのは宝飾品で、2007年の売上高は5兆円を超えた。米国では、社会や環境に悪影響を及ぼす金鉱から金を買わないという「ノー・ダーティ・ゴールド」運動が展開されていて、一流宝飾店の多くもそれに賛同している。だが金の宝飾品の二大購入国、インドと中国はどこ吹く風だ。インドでは金製品への執着がもはや文化となっているし、中国は2007年に米国を抜いて世界第2位の金購入国に躍り出た。

 金がこれほどもてはやされるのは、ひとえに量が少ないからだ。人類の歴史が始まってから、これまでの産出量はわずか16万1000トンと、オリンピックの競泳用プール二つ分になるかならないかだ。その半分以上は、この50年間に採掘された。

 一方で、金の採掘が人間や環境にもたらす負担はかつてないほど重く、深刻になっている。埋蔵量の多かった大金鉱は枯渇しつつあり、新しい金鉱脈はめったに発見されない。まだ採掘されていない金はたいてい辺境の地に少量しか埋まっておらず、無理に開発すると自然の微妙なバランスが崩れるおそれがある。だが、そんなことなどお構いなしの鉱山業者は、規模の大小を問わずいくらでもいる。

 ラ・リンコナダのような小規模鉱山には、移民の貧しい労働者たちが押し寄せる。国連工業開発機関(UNIDO)の推計によれば、そうした金鉱で採掘作業に従事する人々は、モンゴルからブラジルまで世界に1000万~1500万人いるという。採掘方法は何世紀も変わらない原始的なものだが、産出量は世界の4分の1を占め、その稼ぎが1億人の生活を支えている。彼らにとって金を掘るのは生計の手段だが、命がけの営みでもある。

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