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盗まれる聖地の宝

DECEMBER 2008

文=トム・ミューラー 写真=マイケル・メルフォード

レスチナ自治政府とイスラエルの管轄区域が入り組むヨルダン川西岸。遺跡を狙う盗掘が横行しているが、政情不安のなか取り締まりが難航している。

 ヨルダン川西岸の都市ヘブロンの南西に、オリーブの木が植わったなだらかな丘がある。キルバト・タワスは、その頂に1000年も前からたたずむ、ビザンチン時代の貴重な遺跡だ。バシリカ(教会堂)があった場所には優美な石柱が並び、タイルで華麗なモザイクをほどこした床を見下ろしている。だが、占領地のパレスチナ人が起こした反イスラエル闘争「第二次インティファーダ」により、遺跡は大打撃を受けた。

 2000年、パレスチナ人とイスラエル軍の衝突が始まると、西岸地区はほぼ完全な無政府状態に陥った。イスラエル当局はまもなく、多くの検問所を設けて西岸地区全体を封鎖。ほとんどのパレスチナ人が、イスラエル国内へ働きに行けなくなった。仕事を失った男たちは金目のものを血眼で探し回り、シャベルを持った盗掘団が、ここキルバト・タワスにもやってきた。ビザンチン時代のコイン、陶製のランプ、ガラスの腕輪……。盗掘者たちは礎石の下や井戸、貯水池を容赦なく掘り起こし、売れそうなものを物色した。石柱は倒され、昔の壁や戸口の跡が消えてもおかまいなし。考古学的に貴重で、観光名所だった遺跡は、穴ぼことがれきだらけの荒涼とした廃墟に姿を変えていった。

 地元のイマーム(イスラム教の宗教指導者)で商店主のアブー・モズハルは、盗掘者たちにやめてくれと懇願したが、徒労に終わったという。「連中は遺跡をめちゃくちゃに破壊しました。以前は美しい場所だったのに」と、胸に手を当て、悔恨の念に顔をゆがめた。

 第二次インティファーダの開始以降、西岸地区の随所に点在する無数の遺跡が被害を受けた。働き口が少なく、隣のイスラエル本国では古美術品の人気が高く、当局の取り締まりは不十分-。盗掘者にとっては理想的な環境なのだと、古美術の盗品売買に詳しいカナダ・トロント大学のモラーグ・ケーセルは話す。

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