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特集

地球にひとつの生命
セミクジラ
北と南で分かれる運命

DECEMBER 2008


 乱獲が原因で生息数は激減し、20世紀になる頃には、わずか数十頭のみとなった。1935年になって商業捕鯨が禁止されて以降、少しずつ回復し、現在の生息数は350~400頭ほどとみられる。乱獲を生き延びたクジラたちは、米国の東海岸に沿って、索餌海域であるメイン湾から、はるか南に位置する越冬海域の間を回遊する。雌クジラは出産のために2000キロ以上も移動するが、途中、船舶の往来が激しく、漁業が盛んな海域を通らなければならないのだ。

 ボストンにあるニューイングランド水族館の研究チームは、毎夏、メイン州ルーベックを拠点に、タイセイヨウセミクジラの調査を続けている。対象は、ファンディ湾とノバスコシア半島沖のローズウエー海盆で餌を採り、集団行動をする個体群だ。チームはこれまでに39万枚にのぼる写真を撮影し、クジラに関する記録を蓄積してきた。今では、頭部の皮膚が硬くなってできた隆起の形状や、身体に負った傷の位置、またDNAサンプルを手掛かりに、すべての個体を識別できるようになった。

 研究チームにはお気に入りのクジラがいる。認識番号2223番。1992年に初めて確認された時は、ボートの周りをはしゃぎながら泳ぐ赤ちゃんで、研究者たちはこのクジラにカルヴィンという男の子の名前を付けた。しかし、しばらくして、「死にかけている母クジラの周りをぐるぐる回っている子クジラがいる」との報告が入った。研究チームが調べたところ、死んだクジラは認識番号1223番のデライラで、カルヴィンの母親だったのだ。デライラの体には、激しい衝突による傷が見つかった。おそらくは、貨物船とぶつかったのだろう。生後8カ月だったカルヴィンにはまだ栄養たっぷりの母乳が必要で、母親を失ったいま、生き延びられる可能性はないだろうと思われた。

 翌年7月、研究者たちは湾内で撮影したばかりの写真を詳しく調べていて、見覚えのあるクジラを見つけた。そう、あのカルヴィンの写真があったのだ。孤児になったカルヴィンはなんとか生き延びていた。1994年に採取された皮膚のDNAサンプルから、カルヴィンは雌であることが判明した。そしてその翌年には、海面活動グループ(SAG)に入ったことが報告された。SAGとは、海面付近でしぶきを上げたり、体を押しつけあったり、回転しながら求愛行動する成熟したクジラたちの集団のことだ。実際には10歳くらいにならないと性的には成熟しないが、カルヴィンのような成熟前のクジラたちも、海面活動の楽しげな雰囲気にひきつけられて集まり、繁殖に必要な行動を練習するようだ。繁殖力のある雌クジラは、個体群において最も重要な存在だが、その数は100頭に満たない。カルヴィンがその貴重な雌たちの仲間入りを果たす日は遠くなさそうだった。

 それから3年間連続して、研究者たちはカルヴィンの脂肪の厚さを超音波測定器で測り続けた。カルヴィンは丸々とふくよかに成長していった。健康に成長しているしるしだ。

 だが、2000年夏、カルヴィンが再びファンディ湾に姿を見せた時、その体には漁具が巻きついていた。ポリエステル混紡の漁業用ロープは丈夫で切れにくいため、カルヴィンの皮膚に食い込んでいる。泳ぐ速度はいつもより遅く、ロープを引きずる姿は痛々しかった。その後、研究チームはカルヴィンの姿を見失った。

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