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特集

地球にひとつの生命
浜辺で恋する
ミナミゾウアザラシ

NOVEMBER 2008


 ビーチマスター(浜辺の主)―。研究者たちは、縄張り争いの勝者となった雄をこう呼ぶ。勝者がつくるハーレムの大きさはさまざまで、20頭ほどの雌からなるささやかな群れから、300頭くらいの集団、なかには1000頭を超える巨大ハーレムまである。

 10月初め、雌たちが海岸にやってくる。上陸するとまず、前の年に妊娠した子どもを出産し、3週間の子育てを終えると再び交尾する。この時期のビーチマスターは、雌たちをほかの雄の誘惑から守るのに忙しい。ハーレムの周りでは、惜しくも決戦に敗れた雄たちが、雌と交尾する機会を虎視眈々と狙っている。支配権を得た後も、戦いは避けられないのだ。

 「大きなハーレムをつくり、守っていくのはとても危険な仕事です」。英国の自然環境研究会議で海生哺乳類を担当する生物学者のマイク・フェダックはこう話す。研究者たちもハーレムを横切る際は、ビーチマスターとそのライバルの雄の間にはさまれないように気をつけている。「ミナミゾウアザラシは、手足がおそろしく短いわりに、驚くほど素早く動けるので、細心の注意が必要です」と、フェダックは説明する。

 ゾウアザラシが浜辺で過ごす恋の季節は、11月末ごろまで続く。その間は食べ物をほとんど口にしないため、体重が半減することもあるほどだ。一方、子どもたちは栄養たっぷりの母乳をもらえる3週間のあいだに、体重が1日に約4.5キロも増える。子育ても終盤になると、雌は海に戻る準備を始める。雄と交尾した後、子どもを乳離れさせ、自力で餌をとるように仕向けてから、浜辺を後にする。このとき雌が身ごもっている子が、翌年にはまた同じ浜辺をにぎわすことになるのだ。雄や子どものアザラシたちも、雌の後を追うように海に入っていく。

 ミナミゾウアザラシは環境にきわめてうまく適応した捕食者だと言われ、海にいる姿を見れば、その評価もうなずける。約1万3000キロの距離を移動し、約1500メートルの深さまで潜る。栄養分が豊富な海流に集まるイカや魚などの獲物を捕って何カ月も過ごす。最長で2時間もの潜水に耐え、息つぎに必要なのはたった数分。こうした能力を支えているのは、特殊な生理機能だ。たとえば、ゾウアザラシは体内の酸素を節約するために代謝を一部停止させることができる。さらに、血液量が体積の約20%もあり、人間と比べ3倍近い。

 深海域にまで出没する彼らの観察は、難事業だ。そこで近年、研究者たちはミナミゾウアザラシの体に電子タグを装着し、衛星による追跡調査をするようになった。このタグは、気候変動による影響の調査にも一役買っている。

 「いま、海洋大循環(海水の流れ)のパターンに異変が起きつつあるのではないかと懸念されています」と、フェダックは語る。海流の変化は、気候に大きな影響を与えている可能性があるという。「南極海は海洋大循環のなかでも重要な役割を担っていますが、そのデータは不足しています。ミナミゾウアザラシは、ほかの方法ではたどり着けない領域まで観測装置を運んでくれるのです」

 5年前に始まった調査研究プロジェクトの一環として、南極海のなかでも最も観測が難しい海域の水温や塩分濃度、海流に関するデータが集まりつつある。青い氷の海を滑るように泳ぐミナミゾウアザラシたちは、私たちの地球を救う手助けもしてくれているのだ。

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