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特集

潜入!
巨大結晶の洞窟

NOVEMBER 2008


 洞窟に入るには、厳重な装備が必要だ。まず、着こんだベストの胸と背中のあちこちにポケットがあり、手のひらサイズの保冷剤が10個ほど縫い付けてある。その保冷剤を外の熱から守るためにベストを重ね着して、さらにその上から明るいオレンジ色の防水性スーツを着こむ。ヘルメット、ヘッドランプ、氷で冷やされた冷気を送りこむマスクを着け、手袋をはめてブーツをはくと準備完了。だがこれだけ完全防備をしても、洞窟内では熱のせいで極度に疲労する。長時間なかにいることは危険で、洞窟内に滞在できる時間は20分以内だ。イタリアの探検チーム「ラ・ベンタ」の一員で医師の資格をもつジョバンニ・バディーノが先導して、私たちは洞窟のなかに入った。

 洞窟内を埋めつくすのは、セレナイトと呼ばれる透明な石膏の結晶だ。結晶を構成する分子は厳密な規則に従って並び、整然とした秩序をつくり出している。だが同時に、結晶は環境にも影響を受ける。2001年以降、多くの科学者がナイカ鉱山の結晶を研究している。スペインの結晶学者であるフアン・マヌエル・ガルシア・ルイスもその一人。ガルシアの研究チームは、結晶の内部に閉じ込められた液体の泡を調べることで、結晶がどのように成長するかを明らかにした。

 ナイカ鉱山の多くの洞窟には、何十万年もの年月をかけて、硫酸カルシウムを豊富に含む地下水が染み込んだ。地下のマグマで熱せられた洞窟は徐々に冷え、洞内にたまった水の温度は58℃前後で安定した。この温度では水中の硫酸カルシウムはセレナイトに変化する。こうしてセレナイトの分子が小さなレンガのように徐々に積み重なって結晶を形成したのだ。別の洞窟では、温度が安定しなかったり、何らかの原因で環境が変わったため、もっと小さな結晶が形成された。だが「結晶の洞窟」では数十万年の間、環境が変わらないまま、ほぼ完璧な均衡状態が保たれ、結晶は着実に成長した。1985年、鉱山労働者がポンプで洞窟内の水を抜き取るまで、この均衡状態は保たれた。以後、結晶の成長は止まった。

 圧倒的に美しく不思議な巨大結晶に出合った人たちは、自分たちの身近なものにたとえて表現しようとする。ガルシアは結晶の洞窟を「結晶のシスティナ礼拝堂」と呼んだ。

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