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特集

近代化に向けて
爆走する
インドの高速道路

OCTOBER 2008


 私は、ラケシュ・クマールという男のトラックに同乗させてもらった。フロントガラスの向こう側には、GQがどこまでも続いている。ヘッドライトに照らされたアスファルトに影が躍る。道ばたにたたずむ牛に干し草の山、犬の死体、自転車の残骸などが、現れては消えていった。

 時刻は午前3時半。運転するクマールと19歳の甥サンジャイは、眠気覚ましに強烈なかみタバコを口に含み、シラミに食われた跡をぽりぽりとかいている。安物のスピーカーからは、ボリウッド(インドの映画産業)の甲高いラブソングが大音量で流れてくる。

 「運転中に聞くなら、やっぱりこれだね!」と、クマールが大声でどなってきた。車内には大型ジェット機かと思うほどやかましいエンジン音が響きわたっているが、トラックのスピードは時速50キロほどしか出ていない。

 クマールは、インド西部のグジャラート州で、ムンバイの北400キロの辺りを走っていた。ロウや染料、電子部品など9トンもの荷物をトラックに積み、デリーにある工場まで運ぶところだ。重量オーバーで、今夜はすでに2回もパンクした。午前4時までにラージャスターン州境に着かなくてはならない。重量オーバーを見逃してもらうため、雇い主の友人の手引きで検問所を通過する約束をとりつけてあるのだ。陽気でストレートな物言いのクマールは42歳。ひしゃげた鼻とたくましい体格で、一見すると元ボクサーみたいだが、この道22年のトラック運転手だ。外見とは裏腹に、安全運転で評判が高く、ハンドルを握るときはしらふだ。

 「今夜この高速道路を走っているほとんどのドライバーは、何かやっているね」と、クマールは言う。ドライバーたちはみな、大麻や酒、アヘン、ビンロウの実を混ぜた「ドダ」というお茶のような飲み物で眠気を退散させるのだが、かえってそれで判断が鈍ることもある。

 GQは6車線道路だが、牛車や水牛、オートバイを見かけることは珍しくない。たまに逆走してくる車さえいる。中央分離帯ではヤギがのんびり草を食んでいるし、ヒンドゥー教で神聖な動物とされるウシが、危険などどこ吹く風と、道路に登場しては渋滞を引き起こす。道路が町を分断しているような場所となると、危険はさらに高まる。ほとんどの車は速度を落とそうとしないのに、それを無視して横断する歩行者が山ほどいるからだ。そのような町では、さすがのGQも渋滞し、交通法規は意味をなさなくなる。

 車が行き交う道路を渡るとき、インド人気質を見ることができる。新しいことが好きで、創造性豊か。押しが強く、精力的で、容赦はないが、驚くほど人がよい……。信号待ちをしていると、絶えずあちこちから身体を押される。どうにか相手より先に行こうと、ポジションの確保に余念がないのだが、悪気はない。彼らの頭には、じっと待つという選択肢がないだけなのだ。

 ウダイプルの料金所の手前で、クマールはGQを降りた。別のルートで行くという。山あいを縫って西に向かうその道路は2車線しかなく、少し遠回りになるが、20ドル(約2200円)の通行料金が節約できる。インドにおいて2車線の高速道路で起きる交通事故の発生率は、GQよりもはるかに高い。「GQができてよかったのは、安全に運転できるようになったことかもしれないな」と、クマールは言う。

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