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特集

ネアンデルタール人
その絶滅の謎

OCTOBER 2008


歯の“年輪”から成長過程を探る

 2007年10月、仏グルノーブルの欧州シンクロトロン放射施設(ESRF)に研究者が集まった。目的は、ネアンデルタール人の生活史をめぐる大きな謎を探ることだ。彼らは現生人類よりも早く成年に達したのか。もしそうなら、脳の発達にも違いがあるかもしれないし、絶滅の原因解明に役立つかもしれない。その成長過程を知る手がかりは、歯に秘められている。

 歯の撮影には、ESRFにある「シンクロトロン型粒子加速器」を使う。粒子を加速させるリングの円周が1キロ近くもある、世界最大級の加速器だ。これを使えば、貴重な試料は無傷のまま、X線で骨の内部構造を詳しく解析できる。

 マックス・プランク研究所のユブランとターニャ・スミスは、コンピューターがずらりと並ぶ観測室で、画面に映し出される歯の画像に目をみはった。撮影しているのは、ル・ムスティエ遺跡で出土した若いネアンデルタール人の右上の犬歯(けん し)だ。そばの棚では、これから撮影される試料が出番を待っていた。クロアチアのクラピナで発見された13万~12万年前のネアンデルタール人の少年の顎骨(がっ こつ)2個、フランスのラ・キーナで発見された7万5000~4万年前のネアンデルタール人の若者の頭骨、そしてイスラエルのカフゼー洞窟で見つかった、歯がすべて残っている9万年前の2体の現生人類の骨だ。

 高解像度のX線画像で歯の内部を見ると、ちょうど木の年輪のように、歯の日々の成長と、より長期的な成長を刻んだ複雑な線が立体的に見える。この成長線を見れば、一生の中で大きなストレスを受けた時期がわかる。たとえば、出生時のストレスは、鋭い「新産線」としてエナメル質に刻まれる。乳離れの時期や、栄養不足などの環境ストレスも、成長中の歯にはっきりした痕跡を残す。

 「歯には、胎児から思春期を経て成長が止まるまでの、継続的な成長の記録が残されています」とスミスは説明する。人間はチンパンジーよりも、性的に成熟するまでに長い年月がかかる。何百万年も前にアフリカの草原地帯に暮らしていた化石人類は、私たちよりもチンパンジーに近く、早く成年に達した。人類の進化の歴史で、今のように成熟年齢が遅くなったのは、どの時点のことなのだろうか。

 この疑問を解き明かそうと、スミスらはモロッコのジェベル・イルード遺跡で出土した初期の現生人類の子どもの歯(約16万年前)をシンクロトロンで調べたことがあった。結果は、現代人と同じ成長パターンを示した。これとは対照的に、ベルギーのスクラディナ洞窟で見つかった10万年前のネアンデルタール人少年の歯には、この少年が8歳で死んだこと、死ななければ、現代人の平均よりも数年早く成年になっていたことを示す痕跡が認められた。一方で、ほかのネアンデルタール人の1本の歯を調べた別の研究チームは、現生人類と成長パターンの違いは認められなかったと報告している。

 今回スミスらが撮影した画像の解析は完了していないが、現段階では、スクラディナ洞窟のサンプルと矛盾しない結果が出ているそうだ。

 成年に達する時期が早いということは「ネアンデルタール人の社会集団の構造、生殖や子育ての行動に確実に影響を与えます」と、ユブランは話す。「現代人の平均よりも4歳早く子どもをつくる社会を想像してみてください。今の社会とはかなり違うはずです」

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