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特集

戦え、チョリータ!

SEPTEMBER 2008


 狂乱のボリビア・プロレスの世界へようこそ。ここエルアルトは、「高いところ」を意味するその地名にふさわしく、標高3900メートルの高地にある。寒冷で木もまばら、楽しみもほとんどない過酷な土地だ。人口およそ100万の大半は、この30年のあいだに農村の貧しい暮らしから逃れて移り住んできた人たちだ。だが、彼らのうち、近くの首都ラパスで定職に就くことができるのは、ほんのひと握りの運のいい人だけ。ほとんどの人は、慢性的な交通渋滞と燃料不足、水不足に悩まされながら、きつい肉体労働に汗を流している。そんな彼らは1日の仕事を終えると、当然のように娯楽を求める―それも思いきり羽目をはずせる娯楽を。

 最近の一番人気は、「チョリータス・ルチャドラス(戦うチョリータ)」と呼ばれる華々しい格闘技ショー。メキシコに「ルチャリブレ(自由の戦い)」という、レスリングに生死のドラマやドタバタ騒ぎをミックスした人気のプロレスがあるが、そのボリビア版ルチャリブレに新風を吹き込んだのが、この「チョリータス・ルチャドラス」なのだ。

 「危ない!」。観客がいっせいに声を上げる。ヨランダが勝ち誇っているすきに、クラウディーナが立ち上がってヨランダに飛びかかろうとしていた。ヨランダが振り向いたときにはもう遅く、ガツンとなぐり倒された。クラウディーナは猛然とロープによじ登り、観客に向かって叫んだ。
 「一番きれいなのは私よ!」

 クラウディーナは、炭酸ドリンクをラッパ飲みしたかと思うと、観客めがけてプーッと吹きかけた。と、その瞬間、立ち上がった善玉のヨランダが彼女に襲いかかり、その体を観客席まで引きずっていく。キャーッとうれしそうな悲鳴をあげながら四方に逃げる観客たち。勝ったのはヨランダ? それともクラウディーナ? ところがそのとき、またもや観客の叫び声。新たな悪玉が、音もなく姿を現していたのだ。

 「暗黒のアビス」というその男性レスラーは、二人の争いに割って入ると、ヨランダに強烈なレッグロックをかけた。もはや絶体絶命。と思いきや、こんどはどこからともなく善玉レスラー「最後のドラゴン」が登場。しかもその手には椅子が! ドラゴンは、椅子を高々と振り上げると、暗黒のアビスめがけてたたきおろす。いや、たたかれているのはもしかしてヨランダ? 一方のクラウディーナも、わけがわからず味方を踏んだり蹴ったりしている。「ああ! 彼はもう永遠におしまいだ」。アナウンサーが絶叫する。

 もっとも、「永遠に」というのは正しくない。ルチャリブレでの「負け」は、決して「おしまい」なんかではないのだ。

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