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地球にひとつの生命
ゾウの大家族

SEPTEMBER 2008


 ダグラス=ハミルトンが少しずつ前進している間に、彼の右側に1頭の雌が回り込んでいくのが見えた。とりわけ体が大きいので、おそらく群れのリーダーだろう。私たちは見つからないよう、頭を低く下げて息をひそめた。雌は不審そうな様子ながらも、挑戦するかのようにどんどん近づいてくる。ダグラス=ハミルトンは、まったく気にしていない様子だが、弟子のダバレンは緊張した面持ちだ。

 やがて、アンが大きな体を揺らしながら、悠然と木立から出てきた。ダグラス=ハミルトンがいる方向にまっすぐ歩いてくる。その距離は15メートルにまで縮まった。すると、ほんの数秒だけだが、アンはこちらに正面を向くと、カメラの前でフラッシュを浴びるモデルのようにポーズをとった。広い額や大きな耳、美しい牙(きば)を誇らしげに見せ、その後、横顔まで披露してくれた。カメラを構えたダグラス=ハミルトンは、すかさずシャッターを切った。

 撮影が一段落したところで、アンはゆっくりとした足どりで遠ざかっていった。ダグラス=ハミルトンはレンズ越しに首輪の様子を確認していた。幸い、首輪がきつくなっているとの情報は誤りで、長さには余裕があり、首が擦れたり締めつけられたりする心配はなさそうだった。

 私たちも撤収した。ゾウのいる場所を避け、大きく遠回りして自動車に戻る。ゾウへの警戒は怠らず、敬意を払うことが大切だ。そうすれば危険を避けながら必要な情報が得られる。これがゾウ観察の極意なのだ。

 40年にわたってゾウを研究してきたダグラス=ハミルトンは、アフリカで研究する誰よりもゾウのことをよく知っている。経験豊富で、ゾウを愛してやまない彼は、持ち前の鋭い観察眼でこの動物の個性を見抜く。興奮しやすい気分を察知し、ちょっとした手がかりから、一頭ごとの性格や行動を把握するすべを会得しているようだ。

 だが、そんな私の理解はただの思い込みにすぎなかった。アンと気持ちを通わせたように思えたこの出来事から数週間後、ダグラス=ハミルトンはゾウに襲われて放り投げられたうえ、危うく牙で突き刺されそうになるのである。

 私たちはダグラス=ハミルトンのセスナ機で、離陸した。彼は好んで低空飛行をする。300メートルも上昇したら、美しい地形の迫力を楽しめないからだという。

 セスナ機は、ごつごつとした岩だらけの丘や山の尾根、アカシアの生える乾いた草原などのすぐ上をかすめるように飛び、サンブル国立保護区に帰っていく。保護区のすぐそばには砂利を敷いた滑走路がある。ダグラス=ハミルトンが調査の拠点としているキャンプはそう離れてはいないから、日没前には戻れそうだ。

 ケニア中部にあるサンブル国立保護区は、知られざる自然の宝庫だ。サンブルという名は、勇猛さで名を馳せた地元の牧畜民族に由来する。ダグラス=ハミルトンの助手ダバレンも、先祖はこの民族の出身だ。

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