![]() 記事ランキング |
||
地球にひとつの生命 SEPTEMBER 2008 |
![]() 文=デビッド・クアメン 写真=マイケル・ニコルズ ケニア中部のサンブル県周辺には、同国有数のゾウの生息地が広がっている。この道40年のゾウ研究者と行動を共にし、ゾウたちの雄大な姿をとらえた。
サンブルのゾウたち
写真家のマイケル・ニコルズは 半年かけて取材を行いケニア・サンブル国立保護区のゾウの姿をとらえた 生物学者イアン・ダグラス=ハミルトンが、1頭のゾウに忍び寄ろうとしていた。年ごろを迎えた大きな若い雌で、恥ずかしがりだ。ゾウの名前はアン。ケニア北部の奥地にある、小高い丘の木立に半分身を隠して、家族と一緒にのんびりと若葉を食べていた。その首には頑丈な革の首輪がはめられていて、ちょうど肩のあたりに発信器がついている。 ダグラス=ハミルトンはこの発信器から出る信号を頼りに、アンの居場所を見つけ出した。小型のセスナ機が使えたのは途中までだ。後は背の高い草やアカシアの茂みをかきわけて、自分の足で進まなくてはならなかった。 身をかがめたダグラス=ハミルトンは、風上に向かって前進し、アンまで30メートルという位置にまで接近していた。アンはひたすら葉っぱを食べている。彼の存在に気づいていないのか、はたまた関心がないのかは、見たところわからなかった。 ゾウはときに危険な動物である。気難しいうえに興奮しやすく、身を守ろうとするあまりどう猛になる場合があるのだ。ゾウ研究の世界的な権威として40年ものキャリアを誇るダグラス=ハミルトンだからできる技なので、素人は真似してゾウに近寄ったりしないほうがいいだろう。 彼が確認したいのは、アンの首輪の状態だ。データ収集のターゲットとしてアンを選び、麻酔銃で眠らせて発信器を装着したのだが、その後「成長して首輪がきつくなっているようだ」という報告が入っていた。 ゾウ観察の極意ダグラス=ハミルトンは、ゾウを観察するとき、普段ならこんな危険は冒さない。大型の4輪駆動車に乗ったまま慎重に観察するのだが、この一帯は車で進入できなかった。今はアンの健康状態と首輪の具合を確かめることが先決だったので、歩いて接近することにした。首輪についた重りが垂れ下がった状態でないと、首が締めつけられてしまうのだ。 茂みのなかのアンは、巨大なお尻をこちらに向けていたので首輪の様子を見ることができなかった。そこでダグラス=ハミルトンは、身をかがめたまま、さらに近づいていった。 その後を、3人の男がそろそろとついていく。デビッド・ダバレンはダグラス=ハミルトンが目をかけている若い助手で、今回のような調査には、たいてい同行する。ウィンチェスターのライフルを構えている男は地元のガイド。そして残る一人が私だ。 |