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特集

大雪山
"神々の庭"を歩く

AUGUST 2008

文=グレテル・アーリック 写真=マイケル・ヤマシタ

解け水を集める忠別川、荒々しい旭岳の山肌、秋色に染まるウラジロナナカマド--二人の米国人が、手つかずの自然を残す大雪山の魅力に迫った。

 火山と水-大雪山の自然は、この二つが支えている。今も噴煙を上げる火山の裾野には、雪解け水にはぐくまれた広大な原生林が横たわり、夏には緑、秋には紅や黄、冬には白へとその表情を変える。

 北海道の中央部に位置する大雪山国立公園は、広さ約2300平方キロと、陸域にある国立公園としては日本最大だ。大部分を占める原生林は、少数の山道を除いて、人を寄せつけない力をもっている。

 限られた国土を最大限に利用している日本にあって、手つかずの自然を多く残す大雪山は、貴重な国立公園だ。旭岳と十勝岳という二つの活火山の裾野に広がる豊かな森林は、シカや野鳥、野ウサギ、ヒグマのほか、貴重な植物の宝庫となっている。ハイカーは、雄大な大雪山に無言の敬意を払いながら歩みを進める。

 暖かい秋の日の早朝、私はガイド役の青木倫子と山に入った。夏から秋にかけて、彼女はときどき8時間がかりの山歩きに出る。旭岳の山頂を越えて風の強い尾根を横切り、斜面を下って秘密の谷へ向かう。そこでエゾヒグマの観察を手伝うボーイフレンドに会いにいくのだ。私はそれに同行させてもらった。

 旭岳に近づくと、噴気孔の"息づかい"が聞こえてきた。山の全容は雲に覆われて見えないが、前方に火山があるのを確かに感じる。

 姿見の池に着く。かなたに見える残雪と噴煙が、鏡のような水面に映ってまじり合う。かつて、先住民であるアイヌ民族の人々は、旭岳を含む大雪山一帯を「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」などと呼んだという。明治時代に土地を奪われ、日本の社会に同化していったため、今では純粋なアイヌと呼べる人々は少ない。それでも、目の前に広がる風景は、大雪の山河を神聖なものと考えたアイヌの人々と切り離して考えることはできない。

 アイヌの人々は、サケやクマ、果実、狩猟用のナイフなど、暮らしを支えるあらゆる物に、アイヌの神「カムイ」が宿っていると考えていた。地上に降りたカムイを天に帰すために、人々は食料を捧げ、祈りの言葉を唱えた。特に、肉と毛皮、道具の材料の骨を与えてくれるクマを天に送る「クマ送り」は、重要な儀式だった。

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