/2008年8月号

トップ > マガジン > 2008年8月号 > 追憶のペルシャ


定期購読

ナショジオクイズ

Q:太古の昔から大規模な移動を繰り返してきたアフリカ、セレンゲティのオグロヌー。その大移動で正しいのは次のうちどれでしょう。

  • 一直線に移動
  • 時計回りに移動
  • ジグザグに移動

答えを見る



特集

追憶のペルシャ

AUGUST 2008


 叙事詩人のフィルドゥシーは敬虔なイスラム教徒だったが、アラブの影響は受け入れなかった。30年かけて完成させた一大作品『王の書(シャー・ナーメ)』のなかでも、アラビア語由来の単語を極力避けている。王の治世を描いたこの叙事詩集には、50人の王が年代順に登場し、彼らの即位や退位、死、王国の崩壊などが記され、アラブによる侵略という大災厄で幕を閉じる。

 なかでも人々に愛されているのが、高潔で勇敢な騎士ロスタムだ。『王の書』を英訳した米オハイオ州立大学のペルシャ研究者、ディック・デービスによると、ロスタムは国を救う英雄であり、希代の策士だという。

 「この物語はイラン人の神話です。自分たちをロスタムの姿に重ね合わせているんですよ」と、デービスは話す。

 物語のなかで、王とその部下である戦士がしばしば対立する。倫理的に正しいのは決まって戦士で、邪悪で無能な支配者に仕えねばならないジレンマに苦しむ。支配者の資質をもつ者ほどその地位には興味がなく、知恵の本質や魂の行方、理解しがたき神の御心といった、普遍的な問題に心を砕くというテーマが、『王の書』には描かれているのだ。

 この叙事詩集の原典はとうの昔に失われていて、現在残っているのはすべて写本だ。テヘランのゴレスタン宮殿博物館にも、1430年頃に作成された写本が所蔵されている。

 学芸員のベーナズ・タブリジは大きなテーブルの上に緑色をしたフェルト地の布を広げ、頑丈な保管室から黒い箱をうやうやしく運んできた。唾液や息に含まれる水分から貴重な写本を守るため、私もマスクを着けた。白い木綿の手袋をはめたタブリジが箱から写本を慎重に取り出し、そっとページをめくってくれた。

 拡大鏡を手に持って、私はそこに描かれた22点の挿絵をじっくりと見た。木に縛りつけられて、運命を待つ男。わが子と知らずに、戦で息子ソーラブを殺してしまう英雄ロスタム。ゾウに乗った侵略者たちを迎え撃つ、馬上の男たち-。どの絵も精緻を極め、鮮やかな色を保っていた。花びらを絞って採取した液体を、砕いた石と混ぜ合わせて作った絵の具で彩色されていたのだ。

 教養の有無にかかわらず、イラン人なら誰でもフィルドゥシーの詩をいくつかは暗唱できるという。大学はもちろんのこと、伝統的なペルシャ風のティーハウスや一般市民の家でも、朗読会がよく開かれている。

 テヘラン南部にある「アザリ」という店でも、朗読会が行われていた。店の壁には、『王の書』の絵が貼られ、英雄ロスタムとソーラブの戦の一場面もあった。

 語り手の男性が芝居がかった朗読を終えると、楽団がイランの伝統的な音楽を奏で始めた。歌っているのは、女性への愛や、イスラム教の神アラーへの信仰の物語だ。店の客は、テーブルの周りに腰掛けたり、床に敷かれたペルシャ絨毯(じゅうたん)の上でくつろぎながら、たばこを吹かし、音楽に合わせて手拍子をしていた。

 --この続きは、ナショナル ジオグラフィック日本版2008年8月号でお楽しみください。--

Back5


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー