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特集

追憶のペルシャ

AUGUST 2008


運命を決めた地理

 確かに、イランの長い歴史は戦争と侵略の連続だった。犠牲者も数知れない。1980年代のイラン・イラク戦争では、少年兵たちが天国のドアを開けられるというプラスチックの鍵を与えられ、地雷原を歩き、死んでいくこともあった。こうした悲劇を引き起こす根本的な理由は、この国の立地にある。

 地図を広げて、地中海と北京、北京とカイロ、パリとデリーを直線で結んでみるとしよう。どの線もイランの領内を通ることがわかる。東と西が出合う地域に、イランという国は位置しているのだ。

 戦略上重要な立地と豊かな資源が災いして、この国は度重なる侵略に見舞われた。ペルシャ帝国も、アケメネス朝、パルティア、ササン朝と幾度となく興亡を繰り返し、ついに姿を消していった。侵略したのは、トルコ人やチンギス・ハーン率いるモンゴル人、アラブの部族と多彩だった。なかでも、創始されたばかりのイスラム教の布教に熱心だったアラブ人は、7世紀にペルシャ帝国を完全に支配下に置き、強力なイスラム教時代をもたらした。

 アラブ世界の拡大は、人類史上で最も劇的な出来事の一つといわれ、ペルシャはその変化の渦に巻き込まれていった。しかし、ペルシャの人々は、ほかのイスラム教世界やアラブ世界とは一線を画したところで、自分たちのアイデンティティーを保ってきたのだ。

 イランを代表する考古学者ユーセフ・マジシザデーは「イランはとても大きく、歴史のある国です。だから人々の心やアイデンティティーを変えるのは容易ではありません」と話す。

 イラン人は侵略者に同化したのではなく、逆に侵略者をイランに同化させたという話をよく耳にする。占領した側が「ペルシャ化」してしまうのだ。ペルシャを征服したアレクサンドロス大王も、結局はその文化や行政制度を採用した。そればかりか、ペルシャ出身のロクサーナという女性を妻にめとり、配下の兵士たちとペルシャ人女性の合同結婚式まで挙行したのだ。

アラッタへようこそ

 イランに人々が住み始めたのは、少なくとも1万年前からだと考えられている。イランという国名は、紀元前1500年頃にこの地域へ移り住んできたアーリア人に由来し、以来、さまざまな文明がこの地に花開いてきた。まだ発掘されず地中に眠る遺跡は数万にものぼるとみられる。

 2000年、イラン南東部のジーロフト近郊で新たな発見があった。ハリル川が氾濫して、数千もの古い墓が偶然、地上に姿を現したのだ。現在、6度目の発掘調査が行われており、興味深い発掘物も見つかっている。ジーロフトには、メソポタミアと同時代に文明が栄えていたという説もあるため、注目が集まっている。

 この発掘調査を指揮しているのが、考古学者のマジシザデー。専門は紀元前3000年頃で、ジーロフトは紀元前2700年頃の青銅器時代に存在した幻の国“アラッタ”ではないかと、考えている。アラッタの優れた工芸品はメソポタミアにまで運ばれたと伝えられるが、現時点で確証はなく、その存在自体に懐疑的な研究者もいる。では、どのような発掘物が見つかれば、この仮説を立証できるのか? 私の問いに、マジシザデーは笑いながらこう答えた。「『アラッタへようこそ』とでも書かれた門ですかね」

 ジーロフトには発掘を待っている遺跡がまだ数千カ所あるが、それらすべてを調べるのは不可能なように思える

 現在イランでは失業者が増え、官僚組織は肥大化して効率が低下し、汚職もまん延している。私が話を聞いた3人のイラン人は、国家の腐敗について、それぞれ「公然の秘密だ」、「以前より悪化している」、「もはや制度として定着してしまった」と言った

 マジシザデーは「イランはまだ豊かな国とは言えない状態で、考古学は後回しになりがちです。それでも、ジーロフトでの発見以降、国中が発掘調査に関心を示すようになりました。ジーロフトのように有名になりたいと夢見ている小さな町がたくさんあるのです」と語る

 イランが幾度となく侵略を受けてきた原因は一つではないが、結局、地理的な条件の影響が一番大きいと、マジシザデーも考えている。砂漠に囲まれているため、逃げる場所も、隠れる場所もない。国にとどまって侵略者とうまく共存していくしかなかったからこそ、イランの人々は本心を隠し、他人との付き合い方を規定するタアロフを作り上げたのだろう。

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