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特集

デス・バレー国立公園
裸の大地 時の記憶

JULY 2008

文=ティム・ケーヒル 写真=マイケル・メルフォード

国南西部に広がるデス・バレー国立公園。海抜下86メートルの盆地から標高3000メートルを超す山脈まで、荒々しい生まれたままの自然が残る。

 デス・バレー国立公園の景色を目にすると、地質学者たちはある種の性的興奮を覚えるのではないだろうか。なぜなら、ここの地形が一糸まとわぬ姿だからだ。地球上のほかの場所では、岩石層の褶曲(しゅう きょく)や地殻プレートの衝突、火山活動、氷河の移動、そして浸食作用といった地質現象の跡は、草や土、あるいは、水や氷で覆い隠されている。母なる自然は奥ゆかしく、めったに素肌を見せないが、デス・バレーではほとんどが裸のままだ。

 ここはまた、その地形を見ただけで大笑いができる、地球上で唯一無二の場所でもある。たとえば、国立公園の北西部に位置するレーストラックと呼ばれる一角だ。“競馬場”という意味の名をもつこの場所では、不思議なことに、電子レンジほどの大きさの岩が800メートル以上も移動するという。岩が動いてできた“わだち”は至る所にあって、その端に岩がぽつんと鎮座しているのだ。この光景を見れば、岩が数百メートルも動いたのだと納得せざるを得ない。こうした“さまよえる岩”は150個を超えるが、移動の現場を目撃した人間はまだいない。

 長さ5キロ、幅2キロほどのレーストラックは干上がった湖の底で、地学用語で「プラヤ」と呼ばれる地形だ。高低差はわずか5センチしかなく、平坦な土地の表面には、日に照りつけられて乾ききった泥土がカメの甲羅のような多角形の模様を作り出している。辺りは世界の終末を思わせる静けさに包まれ、聞こえるのは風の音ばかり。この寂しげな印象をさらに強めているのが、北端にそびえる高さ22メートルのグランドスタンドと呼ばれる岩山だ。その姿は、堆積物に埋もれた山の頂上だけが地上に顔をのぞかせているようにも思える。

 レーストラックを目指して、ウベヘベ・クレーターから砂利道を50キロほどドライブした。思ったほどの悪路ではなかったので、午後の早い時間には目的地に到着してしまった。さまよえる岩を見物するのには少し早い。岩が一番きれいに見えるのは、太陽の光が斜めから差し込む夜明けか夕暮れなのだ。そこで、夕方まで時間をつぶそうと、私はウベヘベ・ピーク近くの尾根に登ることにした。デス・バレー国立公園でも屈指の眺望が堪能できる場所だ。

 2月のこの日、気温は20℃台の前半まで上がり、登山は快適そのものだった。尾根に着いて西の方角を見ると、砂と塩に覆われたサリーン・バレーが1300メートルの眼下に広がっていた。さらにその西には、標高3000メートル級のインヨ山脈が連なり、山頂には雪が積もっている。そして、こうした雄大な風景の先には、インヨ山脈を見下ろすようにシエラ・ネバダ山脈がそびえていた。

 この驚くべき標高差こそ、デス・バレーの特徴の一つだ。国立公園が位置するカリフォルニア州南東部の一帯は地震の多発地帯で、かつては巨大な内海が氾濫を繰り返し、風や雨の浸食も受けてきた。その結果、高い山と深い谷底が混在する地形となり、標高3000メートルを超す山々が海抜下86メートルの低地を取り囲む景観がつくり上げられたのだ。

 東の方角に目を転じると、すぐ下にレーストラックとグランドスタンドが見えた。その平坦な土地の一番奥まった一角に、数人の歩く人影があった。その姿はまるで、スケートをしているようだ。その後すぐ、私も尾根を下りて同じ場所を歩いてみたが、不思議なことに、軽いめまいのような感覚があった。足元が少しふらついて、倒れてしまいそうになったのだ。

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