/2008年7月号

トップ > マガジン > 2008年7月号 > ゴリラ殺害事件の真相


定期購読

ナショジオクイズ

国会議員に占める女性の割合が61%と193カ国の中で最も高い国がルワンダ。では、日本はどれくらいの割合で何位でしょうか?

  • 39.7%で16位
  • 23.5%で78位
  • 10.2%で165位

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

ゴリラ殺害事件の真相

JULY 2008


 ゴリラの見学ツアーは、かつてはビルンガ国立公園の観光の目玉で、年間数百万ドルをもたらす貴重な収入源だった。この国立公園は政府機関であるコンゴ自然保護協会(ICCN)の管轄下にあるが、国の予算はほとんどついていない。そのため、ほかの国立公園と同じように、独自に収入源を確保してやっていくしかないのだ。人件費の確保もままならず、汚職や公園内の資源の略奪が横行している。

 ICCNは、かつてこの国を支配した独裁者モブツ・セセ・セコ元大統領のお気に入りの機関だった。モブツは、現代のアフリカをむしばんでいる腐敗政治の生みの親と言ってもよい。「盗むなら賢く、敵を作らないように盗まないと、尻尾をつかまれるぞ」などと、国民に演説することすらあった。

 こうしたやり方は、ビルンガに壊滅的な影響を及ぼすこととなった。国立公園ではびこる腐敗を背景に、ビルンガ国立公園全体の管理責任者と南区域を担当していたレンジャーが対立し、ゴリラが殺害されるという悲惨な事件が起こったのだ。

 ビルンガ国立公園は1979年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産リストに登録されたが、その後深刻な破壊が進み、「危機遺産リスト」に登録された。ビルンガ地域がありとあらゆる非人道的行為の温床となっていることが理由だ。

 隣接するルワンダでは、1994年に80万人以上のツチ族が虐殺された。コンゴでも1996~97年、1998~2003年と、2度にわたる内戦で第2次世界大戦以降では最多となる、500万人を超える死者が出た。それにもかかわらず、ビルンガ国立公園が存続していることは、驚きに値する。公園内をパトロールするICCNレンジャーの強い使命感のおかげだろう。

 この10年間に殉職したレンジャーは、110人を超えている。密猟者に撃たれたケースもあるが、武装組織の犯行が多い。ルワンダの大虐殺以降、虐殺を主導したフツ族の民兵とルワンダ政府軍の兵士は西隣のコンゴに逃れ、コンゴ政府軍と同盟を結んだ。その後、彼らは「ルワンダ解放民主勢力」(FDLR)を結成した。金やスズなどの鉱物資源を強制労働で採掘したり、木炭生産のために樹齢を重ねた貴重な木々を伐ったりするなど、ビルンガ地域の豊かな資源を略奪して、軍備を強化した。さらに、少年たちを洗脳して民族的な憎悪を植えつけ、コンゴ東部にいるツチ族を襲撃するようになったのだ。

 フツ族と政府軍の結託に対抗して、コンゴ領内にいるツチ族の指導者ローラン・ンクンダ将軍は反政府勢力「CNDP」(人民のための防衛民族議会)を結成した。さらに、ルワンダ政府の暗黙の後ろ盾を得て、フツ族の武装組織と闘争を繰り返してきたため、公園の南半分は血なまぐさい戦場と化した。

 コンゴ政府軍は、政治的な情勢と資金の流れしだいで、時にフツ族と組み、時にツチ族に寝返る。この三勢力がこぞって、ビルンガ地域を含む北キブ州に住む人々に対して、レイプや略奪など、想像を絶する残虐行為を繰り返しているのだ。

 昨年7月に公園で見つかったゴリラの死体は、射殺後そのまま放置され、幼いゴリラもそのかたわらで飢え死にしていた。

 死体が発見された時点で、一つだけ確かだったのは、これが密猟者の犯行ではないということだ。金銭目的の密猟者なら、幼いゴリラを生け捕りにし、成熟したゴリラの頭部と手を切りとって闇市場に流すのが手口だからだ。

 今年2月、私は写真家のスタートンとともに、ビルンガ国立公園の16キロ南にある、北キブ州の州都ゴマを訪れた。その頃、ツチ族のンクンダ将軍は政府軍と和平協定を結んだばかりだったが、依然として公園内のゴリラの生息域であるミケノ地区を掌握していた。さらにンクンダ勢は、昨年、2頭のゴリラを殺して食べた疑いがもたれている。彼らは半年のあいだ、ミケノ地区への部外者の立ち入りを禁止し、公園レンジャーもほとんどが撤収していた。当然、私たちが入れるわけがないと言われていたが、ンクンダに会って、足を踏み入れることに成功したのだった。

 武装した護衛に守られたンクンダは、黒い細身のスーツにサングラスをかけ、一見するとジャズミュージシャンのようだった。だが、そんな外見とは裏腹に、少年兵を戦闘に駆りだしていることで悪名高い人物だ。

 そのことを尋ねると、手を軽くひと振りして否定した。少年兵の徴用は、政府軍と同盟を組んだ時期に起きたことで、当時、兵士たちは自分の指揮下にはなかったというのだ。

 「たとえ過去に問題があったとしても、常に未来に目を向けるのが、私の指導理念だ」
 この反政府ゲリラの頭目が政治的な野望を抱いているのは一目瞭然だった。ゴリラについて質問すると、胸を張ってこう答えた。
 「ゴリラはわが国の誇りだ。ゴリラの保護は私の務めだよ」

Back2next


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー