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特集

地球の悲鳴
温暖化で加速する
山火事

JULY 2008


 米国西部の山火事は、春の終わりから秋まで続く。世間の注目を集めるのは、人口が密集するカリフォルニア州ばかりだが、実際には、米国西部の各地で、過去に例のない頻度で発生している。2006年の山火事による延焼面積は、全米で4万平方キロ、翌年も同規模の被害だったが、その3分の2が西部で起きた。最大の原因は、10年続きの干ばつと温暖化だ。山岳部の雪が以前より早く解け、冬の嵐の到来が遅れるようになって、山火事の発生期間が数週間も延びた場所さえある。

急増する消火コスト

 乾燥した森林では病虫害が蔓延し、多くの樹木が枯れ木となり、火がつきやすい状態になっている。こうした状況に対して、消防隊員の増員に加え、消火活動を手伝う民間業者が雇われ、ホースや斧(おの)、トラックが多く準備された。今回の干ばつが始まった1998年、10億ドル(約1000億円)だった連邦政府の山火事対策費は、2007年には30億ドル(約3000億円)を超え、今後もさらに増える見通しだ。しかし、干ばつだけが山火事の原因ではない。

 米国では山火事が発生すると、即座に消火活動が開始される。こうした対処法が確立されたのは、100年近く前の大規模火災がきっかけだ。1910年、西部各地で山火事が発生、数百万ヘクタールが延焼し、多くの消防隊員が命を落とした。それ以降、初期段階で消火することに重点が置かれるようになった。だが、その一方で火災が雨と同様に、自然にとって必要なものであることは理解されていなかった。迅速な消火活動は、林業の衰退と自然保護運動の高まりと相まって、山火事の燃料となる草木を大量に繁茂させる結果となったのだ。

 北アリゾナ大学の研究によると、19世紀後半、調査対象の州内2カ所の森林に自生していた樹木の数は1ヘクタール当たり約50本だったが、火事に遭うことなく100年ほどたった今では、1700本にまで増えているという。

 小規模な火事が抑えられ、草木が大量に繁茂した山では、条件によっては、次に発生する山火事がより大規模で高温になる恐れがあるのだ。しかもこうした悪条件が、当たり前の状態になりつつあるという。最近の気象予測モデルの多くは、近年の干ばつが一時的な現象ではなく、温暖化による長期的な乾燥化傾向のあらわれではないかと推測している。

 アイダホ州の山火事“ラッキー”の消火作業には、西部を中心に全米各地から消防隊員が駆けつけた。隊員たちは夜明けから日没まで働き、テントや地面で眠る。上空には、1日当たり8万ドル(約800万円)もの費用がかかるヘリコプターが飛び交い、水や赤色の火勢抑制剤を散布していく。火災現場から離れた場所にある対策本部では、消火作業にかかる費用が計算されていた。火災発生から9日後の7月26日時点で、費用は150万ドル(約1億5000万円)。同29日には260万ドル(約2億6000万円)になり、8月1日には450万ドル(約4億5000万円)に達した。この時、アイダホ州だけでもラッキーのほかに数十件の山火事が発生中だった。

 ラッキーの消火作業の指揮を執る米国林野局の消防隊員ロバート・バレットは、「山火事は手ごわいです」と言った。「どんな動きをするかを考えて、対応を決めていく。頭を使わないとダメです。火の動きは予測がつきません」。バレットは、火が小川を飛び越えて、乾燥した森林に燃え移る事態だけは食い止めたかった。ラッキーが川の対岸に飛び火すれば、その行く手には住宅や牧場が連なっているのだ。

 第2次世界大戦後、米国西部には多くの人々が移住し、以前は何もなかった土地に住宅や道路、町が築かれた。1990年代になると、山火事がよく発生する自然保護区や森林の境界周辺にも、800万軒もの住宅が建設された。この一帯はかつて、“原野と都市の境界線”として知られていたが、いまでは「愚か者の住む地域」と呼ぶ消防隊員もいる。

 バレットは昼前に別の部隊を現場へ送り込み、迎え火の作業に取り組ませた。当初、作業は順調に進んだ。ガソリンのにおいが立ち込めて炎が上がり、森が火に包まれた。だが午後1時すぎ、風向きが変わった。風の勢いで炎が逆方向へあおられ、まだ火のついていない広大な森に向かう。この風向きの変化は、それまで1週間の消火作業を台無しにするどころか、事態をさらに悪化しかねなかった。無線では興奮したやりとりが続いている。バレットはバックパックをつかみ、消火用の斧を手にすると、状況を確かめるために、燃えさかる現場まで歩いていった。

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