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石油が涸れる日

JUNE 2008


 この動かしがたい変化を目の当たりにして、石油業界もやや自信を失っている。2007年秋、国際エネルギー機関(IEA)が、2030年までに世界の石油需要は3割以上増し、1日1億1600万バレルに達するという予測を出すと、石油会社の重役たちさえ、はたして生産が追いつくだろうかと懸念を表明した。ロンドンで開催された石油業界の会議で、フランスの石油会社大手トタルのCEO(最高経営責任者)クリストフ・ド・マルジュリは、1日の生産量は“どんなに楽観的に見ても”最大1億バレル止まり、つまり、2020年以前に世界の石油需要が供給を上回る可能性があると明言した。2008年1月には、オランダの石油会社大手ロイヤル・ダッチ・シェルのCEOイェルーン・ヴァン・デル・ヴェールが、「2015年以降、採掘容易な石油と天然ガスの供給量では需要を賄えない」との予測を出した。

 石油業界の大物たちは、石油生産が伸び悩む主な原因を、地下の地質学的要因ではなく、地上の政治的・経済的要因にあると考えている。戦争で荒廃したイラクの石油埋蔵量は膨大だと言われるが、治安が悪いために生産量はサウジアラビアのおよそ2割しかない。ベネズエラやロシアのような国では、外国の石油会社は法律の壁に阻まれ、新たな油井やその他の設備を思うように開発できない。

 しかし楽観論者でさえ、物理的な限界が近づきつつあることは認めている。例えば、新たに油田を発見するペース。コンピューターを使った地震探査データ解析など、探査技術は目覚ましく進歩しているにもかかわらず、新たに発見される油田の総数は、1960年代初め以降、毎年減りつづけている。

 減少の理由の一つは、単純な確率論だ。大きくて見つけやすい油田のほとんどは何十年も前にすでに発見されているから、残っているのは小さな油田である確率が高い。そこから生産量を増やすには、たくさんの油田を発見するしかない。2007年11月にブラジルの沖合で発見されたトゥピ油田は、おそらくここ7年間で最大のもので、石油会社の経営陣は有頂天になったが、埋蔵量はせいぜい80億バレル。1948年の発見当時、約1200億バレルの埋蔵量を誇ったサウジアラビアの巨大油田ガワールのおよそ15分の1の規模にすぎない。

 小規模な油田は大油田に比べて生産コストも高くつく。石油業界が大油田に依存し、世界の石油生産の3分の1以上が大油田から産出される理由の一つだ。ほとんどの大油田は何十年も前に発見されているため、現在供給されている石油の大半は、ピーク間近か、すでにピークを越えた油田で採掘されたものだ。かつては豊富な生産量を誇った、北海や米国アラスカのノーススロープといった地域の石油生産量は、急速に減少している。

 世界全体でみると、既存の油田からの石油生産量は毎年8%ほど減少している。つまり、石油会社は現在の生産量を維持するためだけでも、1日700万バレル相当の石油を追加生産しなければならない。加えて、1年で約1.5%伸びている需要も賄うには、さらに何百万バレルもの追加生産が必要だ。だが、シェルやメキシコの国営石油公社ペメックスといった世界有数の石油会社でも、年間生産量が販売量を下回るケースは少なくない。

 米国の石油会社大手コノコフィリップスのCEOジェームズ・マルバによれば、2010年には、世界の石油生産のほぼ4割が、現時点で未発見も含めた未稼働の油田から採掘されなければならない。2030年にはほぼすべての石油が、現在まだ稼働していない油田から採掘されたものになるはずだ。だが、マルバ個人は、十分な石油を生産できるかどうか確信がもてないでいる。2007年秋、ニューヨークでの会議の席上、彼は石油生産量が1日1億バレルで頭打ちになると予測した。これはトタルのCEOの予測と一致する。その理由を問うと、マルバは「そんなに多くの石油が、いったいどこにあるというのか?」と問い返した。

 石油生産がどこで頭打ちになるにせよ、確実なことが一つある。安い石油の時代はもう終わった、ということだ。過去に照らすと、世界は厳しい時代に入ったのかもしれない。

 サウジアラビアをはじめとする石油輸出国機構(OPEC)の加盟国は、世界の石油埋蔵量の75%を支配している。石油生産のピークは他の地域よりかなり後になるため、原油価格、ひいては世界経済に強い影響力を与えることになる。しかも、世界の人口が増えつづけ、石油生産が頭打ちか横ばいだと、一人が使えるガソリンや灯油、ディーゼル燃料の量が、現在より大幅に減る可能性もある。輸送はもちろん、料理から照明、灌漑にいたるまで、石油系燃料に依存している発展途上国にとって、これは破滅的な影響を及ぼしかねない。

 将来の展望が厳しいことになかなか世界が気づかないことを、フセイニは危惧している。燃費のよい車や、バイオ燃料などの代替エネルギーは、石油供給の減少をある程度は補える。しかし、もっと重要なのは、石油の大量消費国の需要を減らしていくことだ。エネルギー大量消費型のライフスタイルをどう変えていくか、有意義な議論は「俎上に載せられてすらいない」とフセイニは言う。だが、石油が枯渇することは数字からみても厳然たる事実である以上、もはや議論をこれ以上先延ばしにすることはできないだろう。

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