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石油が涸れる日

JUNE 2008

文=ポール・ロバーツ

「石油生産のピークは間近である」という衝撃の予測。安くて豊富な石油に依存してきた人類は、近い将来、劇的な変化に直面せざるを得ない。

 2000年、サウジアラビアの石油地質学者サダド・I・アル・フセイニは驚くべき発見をした。世界の石油生産量は、早ければ2004年ごろから頭打ちになるというのだ。しかも、横ばい状態はせいぜい15年しか続かず、従来の採掘方法では、生産量は「次第に減少に転じ、二度と回復しない」という。

 それまで世界の石油生産量は毎年安定的に右肩上がりで増えつづけ、需要を賄えるという予想が大半だった。しかし、当時国営石油会社サウジ・アラムコの探査・生産部門の責任者だったフセイニは、長い間、石油業界の楽観的な予測に疑問をいだいてきた。そこで1990年代半ば以降、世界の石油の大部分を生産する主要な油田約250カ所のデータを調査。各油田の原油の埋蔵量と生産量に加え、近く採掘が開始される新しい油田のデータもすべて計算に入れた。その結果、石油生産のピークが間近であるという結論に達したのだ。

 まさかこのような予測がサウジ・アラムコから出るとは、誰も予想だにしていなかった。同社の原油確認埋蔵量は世界最大で、およそ2600億バレル。世界全体のおおよそ2割に当たる。彼らは今後何十年も石油を十分供給できると、常に主張してきたのだ。

 2004年、フセイニは同社を退職し、産業コンサルタントになった。もし彼の主張が正しければ、国防から輸送、食料生産にいたるまで、生活に欠かせない重要なシステムを安くて豊富な石油に依存してきた人類は、近い将来、劇的な変化に直面せざるを得ない。

 世界の石油生産量がピークに近づいているという懸念を示したのは、フセイニが初めてではない。石油地質学者たちは何十年も前から、世界の石油埋蔵量の半分が使い尽くされた後は、年を追うごとに増産は難しくなり、やがて不可能になる日が来ると主張してきた。1900年に1日100万バレルに満たなかった世界の石油生産量は着実に増えつづけ、現在1日約8500万バレルに達したが、いずれは行き詰まる。準備ができていようがいまいが、我々は石油に頼れない時代に突入する。それが原因で、景気後退や戦争も起こり得るだろう。

 石油生産がいつピークを迎えるかについては、大きく意見が分かれている。どれだけの石油が埋蔵されているか、正確にはわからないからだ。悲観論者たちはフセイニ同様、ピークは間近に迫っているか、すでに来ていると主張する。日々、生産量が変動するせいで、はっきり見えないだけだというのだ。

 これに対して楽観論者たちは、ピークが来るのは何十年も先だと主張する。世界にはまだ採掘も発見もされていない石油が豊富にあるとか、カナダ西部に大量に眠るタールサンド(高粘度の油分を含む砂岩)のように、従来とは異なる方法で抽出される石油も膨大にあるというのがその理由だ。悲観論者は過去にも石油生産のピークが間近に迫っていると予測してきたが、その都度新たな油田の発見や採油技術の開発により、生産量は増えつづけてきたと、楽観論者は指摘する。

 一部の石油業界の専門家は、現在の原油価格高騰は、技術的な問題やアジア諸国での需要の急増、ドルの急落などが原因で、一時的なものにすぎないと主張しつづけている。2008年に入り、英国の石油会社大手BPの主任エコノミストは、「石油が枯渇するよりも、需要が非常に減る日が先に来る」と断言した。

 しかし、楽観論者の中にも揺らぎはじめている人がいる。通常、石油価格が上がると、石油会社は新たな探査技術の開発に投資し、採掘困難な油田にも手を伸ばす。1980年代のイラン・イラク戦争勃発後に原油価格は急騰したが、新たに開発された油田の生産量が増えると、市場は供給過剰に陥った。ところがここ数年は、価格の上昇にもかかわらず、従来型の石油生産は1日8500万バレル前後にとどまっている。偶然にもこれは、フセイニが石油生産が頭打ちになり始めると算出した量と、ぴたりと一致する。

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