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石油景気に沸く
ロシア

JUNE 2008


エネルギー頼みの現代ロシア

 さびれた工業団地のような風景が広がるネフチェユガンスクは、石油景気でうるおうどころか、むしろ災難をこうむった町だ。中央広場には鉄パイプが転がり、オビ川の見捨てられた埠頭の横には、ひしゃげたドラム缶が浮いている。

 ロシアのような国にとっては、往々にして石油は豊かさだけでなく災厄ももたらす。石油ブーム前の90年代初め、当時のボリス・エリツィン大統領は地方分権を積極的に推進した。それは、ソ連時代の一党独裁から複数政党の政治に移行し、欧米型の民主主義が定着するという期待が最も高まった時期だった。

 だが、90年代末に石油価格が上がると、ロシア政府は石油がもたらす富を利用して、1991年のソ連崩壊で失墜したロシアの国際的な威信を取り戻そうと考えるようになった。大国ロシアの復活をめざす人々が石油に望みを託すようになったのだ。「石油は、ロシアがよみがえり、生き残る唯一の手段」だと、ハンティ・マンシースクの数学の英才教育校に通う16歳の生徒は言う。

 「超大国ロシアの地位は、いまや軍備ではなく、エネルギーが支えている」と、米国の国際的なコンサルティング会社の幹部ジュリア・ナネイは指摘する。「西シベリアの油田がどうなるかは、ロシア政府の一存で決まる。彼らは国際政治におけるロシアの影響力をできるかぎり拡大するために、石油の生産と輸出を管理したいと考えている」

 帝政ロシア時代の皇帝が、毛皮や塩の取引を独占したように、現在のロシア政府も、石油とその利権を握る新興財閥を国の直接的な管理下に置こうとしているのだ。政府の意向に従えば生き残れるが、逆らえば、ホドルコフスキーと同様の運命を、いや、ことによるともっと恐ろしい事態を覚悟しなければならない。

 こうした状況下で、しぶとく生き残ってきた新興財閥の一人が、ロシア最大の民間の石油会社ルクオイルの社長ワギト・アレクペロフだ。アレクペロフは、生まれ故郷である現在のアゼルバイジャン共和国の首都バクー近くの採掘施設で管理業務に就き、70年代後半にシベリアの油田に派遣された。赴任した村でアルコール類の販売を禁止し、労働者らの反発をかった。一部の労働者が猟銃を手に宿舎を襲ったが、このときたまたま留守にしていたおかげでアレクペロフは命拾いした。

 ソ連崩壊を目前に、彼は西シベリアの主要な石油生産施設を統合し、現在のルクオイルの前身となる国営の複合企業グループを設立した。ルクオイルはいまや巨大な多国籍企業に成長し、確認埋蔵量ではエクソンモービルに次いで世界第2位、米国のざっと2000カ所の給油スタンドを傘下に収めている。

 ルクオイルの油田はほとんど西シベリアにあるが、本社は大統領府のあるモスクワのクレムリン宮殿から3キロほどの所に置かれている。政府の権力ゲームの行方に常にアンテナを張り巡らし、自社の将来を左右しかねない動きをすばやく察知するためだ。

 会ってみると、アレクペロフはしたたかなやり手というだけでなく、人を引きつける魅力をもった男でもあった。「ロシアが世界の石油生産を牛耳ることで、石油消費国には警戒ムードもあるが」と水を向けると、彼は椅子の背にもたれて、破顔一笑した。「私が凶暴なクマに見えるかね。我々はただカネを稼ぎたいだけだよ」

 ユコスを国営化したロシア政府は、ルクオイルも狙うのではないかと聞くと、強い調子で否定した。「政府も大統領も、我が社のような企業には手を出さないさ」。実はホドルコフスキーも逮捕前に私に同じことを言ったのだが、あえてその話は持ちださなかった。

 ハンティ・マンシ自治管区のルクオイルの支社は、コガリムという都市にある。市内のロシア正教の大聖堂にほど近い道路脇の花壇には、花でルクオイルの社名が描かれていた。産婦人科の病院を訪れると、医局長のガリーナ・プストビットが欧米並みの設備を見せてくれた。いまだに多くの女性がソ連時代の不衛生で陰気な施設で出産しているロシアにあって、ここの病棟は高級ホテル並みに贅沢に改築されている。

 ロシアの石油産業の腐敗をどう思うかと聞くと、医局長は病棟を指し示して言った。「この病院は石油会社が建ててくれました。町のあらゆる施設が、石油の生んだ利益で建設されているんです」。その目はこう訴えていた―どうか私たちを責めないで。つらかったシベリア暮らしが、ようやく楽になったのですから。

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