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変化の先に何がある?

MAY 2008

文=ピーター・ヘスラー 写真=フリッツ・ホフマン

しい時代の後に訪れた大きな変化。中国人の将来への期待はふくらみ続けているが、この国が抱える山積みの問題を考えると、決して楽観できない。

 現代の中国で「工場町」が誕生する過程は、どこでも同じだ。最初に姿を現すのは、大抵が建設作業員たち。好景気に後押しされて工事は急ピッチで進められ、いくつもの工場を擁する工業地区が出現する。建設現場で働く農村出身の男たちの後を追うように、商売を始める者が現れる。こうした商売人たちは急ごしらえの屋台で肉や野菜、果物などを売り、やがて店をかまえると建設資材も扱う。

 続いて、携帯電話会社が店開きする。出稼ぎ労働者向けにプリペイド式のテレホンカードが販売され、南東部の浙江省では「ホームシック・カード」という名のカードがよく売れる。

 こうした初期の段階では、警官はほとんどいないし、役人の姿はどこを探しても見当たらない。女性を多く目にするようになるのは、工場の操業が始まってからだ。工場長は若い女性の労働者を好んで雇う。彼女たちは働き者で従順と信じられているからだ。そして、女性の登場とともに、町には衣料品店が出現する。

 工場町が生まれてほどなく、道路脇にはゴミがたまるようになるが、地元政府がゴミ収集などの公共サービスを急いで整備することはない。公共バスが走るまでには何カ月もかかるし、マンホールのふたは盗難を恐れて最後の最後まで取り付けられないのが通例だ。

 私は2年間にわたって、浙江省へ何度も足を運び、農地だった場所に新しい町が出現するのを目の当たりにしてきた。レンタカーで新しい高速道路をひた走り、新興の町から町へと向かった。各地を訪ね回って半年がたった頃、運転中は全く意識していなかった地方政府の存在に気付かされることとなった。速度違反の切符が送られてくるようになったのだ。反則金は1枚当たり20ドルで、旅行の度に3、4枚も切られていた。違反は自動監視カメラでとらえられるのだが、カメラの設置地点では、なぜか警告もなく制限速度が下げられているのだった。ブラジャー製造で知られている金華、合成皮革の産地である麗水、ボタンやファスナーで有名な橋頭など、私は浙江省各地で速度違反を繰り返していたのだ。

 反則金はレンタカー会社に支払った保証金から差し引かれる。「警察にとって大切なビジネスですからね」とレンタカー会社の社長が教えてくれた。後になってわかったことだが、警官が個人で監視カメラを購入し、違反切符を切っては金もうけすることもあるという。

 中国各地の工場町は、別世界から突如として出現したようで、どこか現実離れしている。何より驚かされるのは、そこに生きる人々のバイタリティーだ。大胆不敵な起業家、忙しく働く建設作業員、そして若い出稼ぎ労働者たち。誰もが皆、厳しい過去を乗り越えて鍛えあげられている。彼らの家族は毛沢東時代の貧しさを忘れてはいない。その一方で、ここ数年、多くの中国人が生活水準の向上を実感しているし、なかには大幅に良くなった人もいる。苦しい過去を乗り越え、今、大きなチャンスを目の前にして、中国人はやる気に満ちているのだ。

 だが、将来についてじっくりと考える中国人は少ない。長年にわたる政治的混乱の末、国民は何事も永遠には続かないことを学んだ。そのため起業家は大胆で向こう見ずになったが、同時に目先のことしか考えなくなった。共産党も同じだ。改革を進めるなかで、権限を地方に分散した結果、中央政府は監督機能をほとんど失った。その一方で、多くの地方政府が財政的な自立を求められ、不動産取引によって財源を確保するようになった。市政府が農地の土地使用権を買いあげ、インフラを整備して開発業者に売るのだ。経済学者たちの推定では、地方都市の歳入のおよそ5割がこうした取引によって占められ、“無鉄砲”ともいえる土地開発が各地で行われている。

 地方の党幹部たちは職権を利用して私腹を肥やす機会を決して見逃さない。「5年ごとに地方政府の幹部は代わります」と、中国社会科学院の経済学者、汪利娜は語った。「だから、チャンスは在任中だけなんです。彼らが次世代の指導者たちのことを考えるかですって?任期中に富を蓄えるのに必死で……」

止まらない都市部への人口流入

 個人的にであれ制度的にであれ、目先のことしか考えない傾向は、中国が抱える根深い問題の一つといえる。このほか、中国にとって“両刃の剣”ともいえるのが人口問題だ。中国の人口13億人のうち72%が16歳から64歳。中国の近代史において、これほど労働人口の割合が大きかった時期はない。そして、農村部から都市部への人口大移動により、中国は「世界の工場」へと変貌した。鄧小平が「改革・開放」政策を打ち出した1978年には、都市部の人口は1億7200万人に過ぎなかった。それが現在では5億7700万人と、総人口の40%以上を占めるまでになった。社会科学者たちの予測では、この割合は2030年までに60%を超えるという。

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