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特集

バイオミメティクス
自然に学ぶ設計思想

APRIL 2008



 すでに死滅した太古の生物も参考になる。パーカーは、ポーランド・ワルシャワの博物館に展示されている、琥珀に閉じ込められた4500万年前のハエの目を調べ、光の反射を減らす微細な波形構造を発見した。この構造は太陽電池パネルに採り入れられている。

 バイオミメティクスは躍進めざましい分野だ。パーカーの仕事は、世界各地で精力的に進むこの分野の研究のほんの一端にすぎない。英国のバースと米国ペンシルベニア州ウェストチェスターでは、ザトウクジラのヒレの縁にあるギザギザした形を航空機の翼の設計に生かし、性能を高める研究が進んでいる。ドイツ・ベルリンでは、指のような形をした猛禽類の風切り羽を参考に、空中で形状を変えられる翼の開発に取り組んでいる。こうして空気の抵抗を減らし、燃料効率を高めようというのだ。

 ジンバブエの建築家チームは、アリ塚の温度や湿度、風通しを調節する仕組みを探って、建物の設計に生かそうとしている。日本の研究チームは、蚊の口吻の形に着想を得て、表面をギザギザに加工し、刺すときの痛みを軽減した採血針を開発している。

 「バイオミメティクスは、この方法でしか見いだせない独創的な手法やアイデアをもたらしてくれるのです」と、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の材料科学者であるマイケル・ラブナーは話す。MITではバイオミメティクスがカリキュラムに採り入れられ、「欠かせない一部門」になっているという。

生物の標本はヒントの宝庫

 オーストラリアの砂漠を訪れてまもなく、今度は英国ロンドンでパーカーに会い、モロクトカゲ研究の次の段階を見せてもらうことにした。自然史博物館の入り口から、6階にあるパーカーの研究室に向かう間に、だだっ広い倉庫のような部屋をいくつか抜ける。それらの部屋には、実に多様な生物の標本が保管されている。たとえばある部屋では、ずらりと並んだ人間の腰ほどの高さの瓶に、ラッコやニシキヘビ、ハリモグラ、ワラビーなどの標本が収まっているほか、長さ20メートルのケースに入れられたダイオウイカの標本まである。

 パーカーにとっては、これらはただの標本コレクションではなく、「輝かしいデザインの宝庫」だ。すでに絶滅した種も含め、生物はすべて、何百万年もの自然選択(自然淘汰)を経て、最適化されてきたデザインの成功例である。進化が生みだしたそのみごとなデザインから、私たちは多くを学べるはずだ。標本を見て回りながらパーカーが説明してくれた。

 熱帯の鳥や甲虫がもつ金属的な光沢や鮮やかな色彩は、色素によるものではなく、微細な構造が生みだしている。それは、特定の波長の光だけを反射するよう、実に巧みに配置された構造である。このような構造が生む色彩は、色褪せることがなく、色素による色よりも鮮やかなため、塗料や化粧品、クレジットカードの偽造対策のホログラムなどに利用できると、企業が大きな関心を寄せている。

 南米の鳥オオハシのくちばしは、木の実を割れるほど頑丈なうえに、飛行の妨げにならないほど軽く、丈夫で軽量な構造として注目されている。ハリネズミとヤマアラシの針毛は、無駄のない構造でみごとな弾力性がある。クモの糸は、同じ重さの高品質スチール糸より5倍も強く、はるかに細く引き延ばせる。

 ツチボタルはほとんどエネルギーを使わず、熱を放出せずに、かすかな光を放つ(これに比べ、白熱電球は消費電力の98%を熱として失う非効率的な発光装置だ)。いわゆるヘッピリムシは、尾部に効率のよい化学反応室を備え、高温ガスを敵めがけ噴射する。焼け落ちたばかりの木に産卵するナガヒラタタマムシは、特殊な赤外線センサーで100キロ先からでも森林火災を察知する。現在、米空軍がこの能力を応用しようと研究を進めている。

 「ここを見て回ると、たった30分でざっと50件くらいバイオミメティクスの研究テーマを思いつきます」と、パーカーは言う。「だから夕方にはここに足を踏み入れないようにしているんです。夢中になってしまって、気づくと真夜中を過ぎていることがありますから」

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