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特集

バイオミメティクス
自然に学ぶ設計思想

APRIL 2008

文=トム・ミューラー 写真=ロバート・クラーク

漠に生きるトカゲにならって、乾燥地で水を集められないか。ハエをまねて自在に飛べるロボットは? 生物の奇跡的なデザインは、アイデアの宝庫だ。

 真夏のオーストラリアの砂漠。進化生物学者のアンドリュー・パーカーは、熱く焼けた砂にひざまずくと、モロクトカゲの後ろ足をシャーレの水にひたした。小さな体をとげでおおったその姿がいじらしく思えるほど、このトカゲのすむ環境は苛酷だ。辺りには猛毒をもつヘビがたくさんいるし、木々を吹き抜けてくる風は生暖かいなどというレベルではなく、やけどしそうな熱風だ。そう、ここは乾燥したオーストラリア大陸のなかでも、最も乾いた地域。水の確保が生死を左右する土地なのだ。

 そして、この問題をみごと解決してみせたのがモロクトカゲである。パーカーが毒ヘビの危険も強烈な日差しもいとわず、このトカゲに熱中しているのはそのためだ。

 「ほらね!」。トカゲを見つめる目が輝く。

 「背中全体が濡れてきたでしょう」。たしかにものの30秒ほどで、シャーレに入っていた水は、トカゲの後ろ足を伝って背中へと吸い上げられ、とげにおおわれた皮が濡れて光っていた。さらに数秒後、水は口に達し、トカゲは舌なめずりするようにあごを閉じたり開いたりした。モロクトカゲはいわば足から水を飲んでいるのだ。もっと時間をかければ、わずかに湿った砂からでも、同じ方法で水を集められる。

 モロクトカゲのこの特技は、砂漠で生き延びるには決定的な強みとなる。パーカーはそのメカニズムを探りにここに来た。生物学的な興味からだけではなく、もっと実利的な目的もある。モロクトカゲのこの技をヒントに、わずかの水を効率的に集める装置を開発して、砂漠で人間が利用できるようにすることだ。

 「モロクトカゲの皮は、思っていたよりはるかに水をはじきます。この皮には、水を口まで吸い上げる、肉眼では見えない微細な管が通っているのかもしれません」。パーカーが最後の実験を終えると、私たちは機材を片づけて、四輪駆動車に乗り込んだ。

 「大切なのは、本来の生息環境で観察することです。砂のきめ細かさや光の加減、日陰がどの程度あるかといったことを調べれば、トカゲの特技の本質が見きわめられるのです」。車でキャンプに戻る途中、パーカーは話した。「これで行動観察は終わり、皮の構造などを精緻に調べる作業に入ります」

 パーカーはバイオミメティクス(生体模倣)と呼ばれる分野のパイオニアだ。自然のデザインから着想を得て、工学や材料科学、医学などの課題を解決する学問分野である。パーカーはこれまでにも蝶や甲虫の羽の鮮やかな色、蛾の目に備わった光の反射を防ぐ構造などを調べてきた。その研究は、携帯電話の画面を明るくする技術や、偽札の流通を防ぐ印刷技術(これは極秘の技術で、開発に携わる企業名も明かせないという)などに応用されている。

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