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特集

地球にひとつの生命
槍を使って狩りをする
チンパンジー

APRIL 2008


群れの仲間と食物を奪い合うことが道具を作るきっかけとなった

 フォンゴリのチンパンジーが雨期に狩りをする理由について、プルエはいくつかの説を唱えている。その一つが、雨期には大きな群れで移動することが可能で、そうすることで狩りの必要性が生じることがあるという考えだ。雨によって池の水かさが増えて草木が芽吹けば、群れは食物や水に困ることがないし、チンパンジーにとってグループ行動は大切なのだ。単独や少数で出かけると、仲間からはぐれて何日もそのままになりかねない。プルエはシシーという発情期の雌を指さした。ピンク色にはれたお尻をせわしなく動かしている。「群れからはぐれると、ああやってチャンスを逃がしてしまいます」。つまり、タイミングよく交尾する雄を見つけて遺伝子を残す機会を失うということだ。

 雨期に入り、フォンゴリではすでに2度の雨が降った。群れの移動に必要な食物や水はあるが、十分とは言えない。限られた量を大勢で奪い合うことになるのだが、これこそ、一部のメンバーが新しい工夫を凝らすきっかけになると、プルエは考えている。その一つが、槍を使った狩りだ。これまでほかの調査地で発見されていたオナガザルの組織的な襲撃行動とはタイプが違う。チンパンジーはショウガラゴがひそんでいそうな枯れ木のうろを見かけると、時おり、手近な木の枝を折って葉や小枝を取り除き、片端を歯で削ってとがらせる。そして、これを木のうろに突っこんで、中の動物が動かなくなるまで突くのだ。

 これまで一番多くショウガラゴ狩りの行動を目撃されているのは、群れでの地位が低い雌と若いチンパンジーだ。群れに君臨する雄たちは、自分が見つけた餌を独り占めして分け合おうとはしないので、フォンゴリ・グループの雌たちは自分たちで狩りを始めたのだろう。

 ファンタという赤ん坊を背負った雌のファラファが、ブッシュバックの脚の肉をくわえてやってきた。ティアはファラファを見ると、立ち去った。去り際に2本足で立ち上がり、肉をきれいに食べ終えた骨を、頭上でぐるぐると振りまわした。その様子はまるで、スタンリー・キューブリック監督のSF映画『2001年宇宙の旅』の冒頭部分「人類の夜明け」のシーンのようだった。

 槍を使うチンパンジーの報告であれだけ話題を呼んだプルエが、昨年米イリノイ州シカゴで開かれた「チンパンジーの心」と題した国際会議で報告をしなかったのは奇妙だった。彼女は聴衆の一人として出席した。プルエの博士課程修了後の指導教官ウィリアム・マグルーは、フォンゴリ・グループの狩猟行動に簡単に言及しただけだった。その際、プルエの名前には触れず、プルエの助手で論文の共同執筆者だったパコ・ベルトラーニを調査者として挙げた。彼女は現在、マグルーの教え子で、すでに40例が報告されているこの狩猟行動を最初に目撃した調査チームの一人だ。それでも、主要な研究者であるプルエの名を無視すべきではない。マグルーは後に謝罪した。

 プルエは槍でショウガラゴを突く行動を重要視しすぎだと、一部の霊長類学者は批判する。獲物が手のひらより小さくて狩りと言えるのか、というのだ。性別で狩猟行動を区別する傾向にある学者もいる。これまで、チンパンジーの狩猟は雄の領分とみられてきた。雌や若者が小型哺乳類を捕る行動は「採集」、雄の行動なら「狩猟」で、雌は狩りをする必要がないからしないという考え方だ。また、雄のチンパンジーはセックスの見返りに肉を与えるとみる学者もいるが、フォンゴリではそんな“プレゼント”など見たことがない、とプルエは指摘する。

 私は霊長類の専門家ではないが、フォンゴリのチンパンジーを見ていて自分なりに思うこともあった。プルエに同行していたある日、ショウガラゴのひそんでいそうな木のうろのそばに、デビッドという若いチンパンジーがいた。姿が見えるより先にコンコンという音が鳴り響いてきて、プルエは足を止めた。「ちょっと待って! 槍の音が聞こえたわ」。見回すと、デビッドはプテロカルプス(マメ科の木)の上に立っていた。片手で木につかまり、もう片方の手には長さ1メートルほどの太い木の棒を持って、頭上に振りかざしている。彼はその棒を猛然と木のうろに突っこんでいた。そして何もいないとわかると、槍はうろに差しこんだまま、木から下りた。凶暴でいて抜け目のないデビッドのこの行動は、おとなしく食物を採集する動物のものとは思えなかった。彼の目的は間違いなく、そこにいる動物を殺すこと、あるいは、少なくとも生きる力を奪うことだった。

 チンパンジーとヒトの遺伝子の塩基配列は、約95~98%は同じである。ただし、実はこの数字にそれほど意味はない。ヒトとネズミの遺伝子配列も80%以上は同じだし、ヒトとレタスだって、たぶん40%は共通している。最近のゲノム分析により、チンパンジーと初期人類が枝分かれした直後は、両者間での異種交配があった可能性が明らかになってきた。

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