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特集

宇宙を解き明かす
神の素粒子

MARCH 2008


物理学が大転回をとげた100年

 ここで100年あまり時間をさかのぼって、19世紀後半の物理学の世界を眺めてみよう。

 当時、すでにニュートン力学は宇宙の秩序を説明するものとみなされていたし、物質の基本をなす原子の概念も提唱されていた。「分割不可能」を意味するギリシャ語からアトム(原子)の名がついたのは、これこそが物質を構成する最小単位と考えられた証しだ。

 そのため科学者たちは、おおむね当時の状況に満足していた。物理学の謎はあらかた解き明かされたものと信じ、残っているのはささいな問題だけだと高をくくる雰囲気が漂っていた。

 ところがその後、不可思議な現象が相次いで見つかる。X線やガンマ線に、謎めいた放射線、さらには物理学者トムソンによって電子が発見される。こうして原子が複数の構成要素からできていることがわかり、分割不可能とする従来の概念は覆される。

 トムソンが考えた原子の構造は、レーズンパンの干しぶどうのように、内部に電子が散らばる構造だったが、やがてこれも覆る。1911年に物理学者ラザフォードが、原子はほとんど空っぽで、その質量は中心の小さな核に集中し、周囲を電子が軌道を描いて回るという構造を提唱することになる。

 そして物理学は大変革の時代を迎えた。アインシュタインが特殊相対性理論(1905年)と、そこから発展した一般相対性理論(1915年)を発表、それまで信頼されてきた絶対的な空間や時間の概念は、突然無効になった。

 かわって登場したのが、時間と空間を同列に扱う時空の概念だ。この概念のもとでは、“二つの出来事が同時に起きる”と言ってはいけない。時空は物質によってゆがめられ、そのため直線は曲げられる。光は粒子と波の両方の性質を持ち、エネルギーと物質は交換可能だ。現実は確率論的であって、決定論的ではない。アインシュタイン自身は「神はサイコロを振らない」と言って確率論的世界観を否定したが、結局、それが正統とみなされるにいたった。

 1930年代初めには、ローレンスが最初の円形加速器である「サイクロトロン」を発明する。これは手のひらにのるほど小さな加速器だった。だが現在では、米国シカゴの西側に広がる大草原の地下に、米国立フェルミ研究所の加速器テバトロンが埋まっているし(面積は数平方キロもある)、カリフォルニア州パロアルト近郊の高速道路の真下には、全長3キロの線形加速器がある。冒頭に登場したLHCは、スイスとフランスにまたがって建設されている。

 机上でこつこつと研究することで画期的な答えを見いだそうとする物理学者もいるにはいる。しかし、物質存在の謎を解き明かそうとするなら、こうした巨大でパワフルな装置はどうしても必要なのだ。

 物理の最終理論に達するにはまだほど遠いものの、現在ではアインシュタインやラザフォード、プランク、ボーアなど、かつての偉大な物理学者たちには想像もつかなかった事実が数多く解明されている。

 分子は原子からできていて、原子は陽子、中性子、電子という粒子からできている。陽子と中性子(これらは「ハドロン」と呼ばれ、加速器の名前にも使われている)はクォークとグルーオンという耳慣れない粒子からできている。

 ただし、このあたりになると未解明の部分が増えてくる。はたしてクォークは、それ以上分割できない最小の「基本粒子」なのか、それともクォークを構成するもっと小さい粒子が存在するのか。電子は基本粒子と考えられているが、100%立証されているわけではない。

 今なお理論物理学者たちは、宇宙を説明するシンプルな理論を探求している。単純明快で論理的な、物質のモデルを探し求めているのだ。1960~70年代には素粒子の「標準モデル」が考案された。だが現在では、余計なものがあちこちにぶら下がった機械のように、とても複雑で不格好なモデルになってしまった。基本粒子だけで57種類もあり、それらの相互作用も複雑で難解だ。

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