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特集

地球の悲鳴
米国西部を襲う
干ばつの脅威

MARCH 2008


 1枚の写真には、出水口から勢いよく水を噴き出すフーバーダムが写っている。フーバーダムは1920年代、インペリアル・バレー周辺の農地と新興都市のロサンゼルスにコロラド川の水を供給する目的で計画された。年輪でみると、当時の約20年間、米国西部は過去1000年間でもっとも水の豊富な時期に当たっていた。

 だがポスターの左端近くの写真に写っているのは、コロラド州南西部のメサ・ベルデ国立公園に残る先住民アナサジの住居跡だ。アナサジは13世紀末、断崖を掘って造ったこの驚くべき住居を放棄している。写真の下のグラフを見ると、アナサジが姿を消した時期、コロラド川流域は深刻な干ばつに見舞われ、川の水量が激減していることがわかる。

 南西部にヨーロッパ人が定住する16世紀以前、コロラド川流域が数世紀にわたり、それまでに例のない深刻な干ばつの被害に遭ったことが、樹木の年輪からも確認できる。12世紀に起きた大規模な干ばつのとき、コロラド川の水量は平均で1200万エーカーフィートにまで落ち込んだ。これは20世紀の平均水量の80パーセントにすぎず、現在のコロラド川からの取水量を大幅に下回っている。今、コロラド川の水量がここまで減ったら、深刻な水不足が生じ、水をめぐる熾烈な争いが起きるはずだ。

 さらに、地球全体の温暖化が事態を悪化させている。2007年4月、米国の学術誌「サイエンス」誌に、さまざまな気候予測モデルを統合した研究報告が掲載された。その報告によれば、南西部の乾燥化は今後さらに進み、今世紀半ばには、1930年代に米国中西部を襲った干ばつさながらの乾燥化した気候が常態化するとみられている。

 また、米海洋気象局(NOAA)の研究者たちも同じ気候予測モデルを使ってコロラド川の今後の水量を予測し、コロラド川は現在の枯渇状態から回復することはないという結論に達した。21世紀の半ばまでに、コロラド川の水量は現在の取水量の約半分の700万エーカーフィートにまで減少するという。

「水に潤った」20世紀の終わり

 過去1000年間で、20世紀はもっとも水が豊富な世紀だった。その水の恵みで、米国西部の砂漠にはいくつもの都市が誕生した。だが「豊富な水に潤う」20世紀はもう過去のものだ。西部の樹木は、近年の干ばつで年輪の幅が狭くなっただけでなく、立ち枯れてひんぱんに山火事を起こすようになった。

 だが西部の住民の多くは、このニュースを深刻に受け止めていない。2000年から2006年にかけて、コロラド川流域の七つの州の人口は500万人、率にして10パーセントも増えている。大都市周辺の砂漠に衛星都市が次々と生まれているが、その大都市ですら水の確保のめどが立っていない。水資源の管理者たちは今、難題に直面している。「2001年は、まさに新しい西部時代の始まりを告げる、決定的な年でしたね」。南ネバダ水道局の局長パット・マルロイはそう語る。「温暖化の影響が一挙に現れてきたような気がします」

 2007年7月、数十人の気象学者が米国ニューヨーク市のコロンビア大学ラモント・ドハティ地球科学研究所に集まって、米国南西部をはじめとする世界各地の乾燥地帯の今後の見通しを話し合った。会議の合間、研究者たちは屋外に出ると、ハドソン川を見下ろす広々とした芝生の斜面で休憩をして昼食をとった。ニューヨークの夏にしては曇っていて涼しい、心地よい午後だった。一方、アリゾナ州フェニックスでは、43℃を超える日が32日も続き、記録的猛暑に見舞われていた。西海岸から飛行機でやって来た気象学者は、ネバダ州各地で燃え広がる山火事が飛行機の窓から見えたと話した。

 会議初日の主なテーマは、中世に起きた大規模な干ばつについてだった。カリフォルニア州イースト・ベイのカリフォルニア州立大学から来たスコット・スタインは、干ばつがコロラド川流域を越えてカリフォルニアにまで広がっていたことをはっきりと示す証拠を紹介した。スタインは、シエラ・ネバダ山脈周辺で研究を続けている。米国でもっとも人口の多いカリフォルニア州にとって、シエラ・ネバダ山脈に積もる雪は最大の水源になっている。雪解け水の一部は山脈の東側の山腹にあるモノ湖に集まる。1940年代にロサンゼルス市がモノ湖に注ぐ河川の流れを変えるようになると、湖の水深は14メートルにまで落ち込んだ。

 1970年代の末、水の引いたあとの岸辺を踏査したスタインは、立ち枯れた木を何十本も見つけた。木の多くはハコヤナギとジェフリーマツで、土中にしっかり根を張っていた。木々はみなよじれていて、樹齢も古いようだった。明らかにこれらの樹木は、深刻な干ばつが長引いて、湖の水が後退した時期に地面に根を張ったものだった。木々はシエラ・ネバダ山脈の気候がふたたび湿潤になり、戻ってきた湖水のなかに水没して枯れてしまったのだ。

 スタインはこのほか、シエラ・ネバダ山脈の各地で水没した樹木を見つけている。樹木はどれも、干ばつの起きた二つの時代のいずれかに属していた。最初の干ばつは西暦900年以前に始まり、200年ほど続いた。そのあとで次の大規模な干ばつが発生し、150年ほどのちの1350年頃に終わっている。「わたしたちが平均的と考えてきた気候は、実はかなり湿潤な気候だったのです」と、スタインは話す。

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