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特集

動物の知力

MARCH 2008


仲間をだますカケス

 動物の認知能力の研究を見ていると、私たちはおのずと謙虚になる。創造したり、計画したり、自分を見つめたり、さらには策を弄して他者をだましたりするのは、人間だけに与えられた能力ではないのだ。

 他者をだますには、複雑な思考が必要になる。相手の思惑を推察し、どういう行動をとるかを事前に予測しなければならないからだ。チンパンジーやオランウータン、ゴリラ、ボノボには、人間と同じく、こうした能力がある。野生の群れの調査では、リーダー格の雄に気づかれないよう、ほかの雄や雌がこっそり食べ物を隠したり、交尾したりするといった行動が観察されている。

 仲間をだます能力は、鳥にもある。たとえば、アメリカカケスが仲間の意図を見抜き、その情報をもとに行動することが実験でわかっている。食べ物を盗んだことのあるカケスは、木の実を隠しているところを仲間に見られたら、後でこっそり戻ってきて隠し場所を変えておく。

 「自分の経験から他者の意図を推察する能力は、動物にもあるんです。私たちは実験で、それをはっきりと裏づけました」と、英国ケンブリッジ大学のニッキー・クレイトンは話す。

 クレイトンと共同研究者のネイサン・エメリーはこの研究を通じて、知的能力の進化の裏には生存のための必要性があることを初めて示した。冬に備えて食べ物を隠さなければならないといった必要性が、だます能力などを進化させるというのだ。また、過去の出来事を思い出す能力が鳥にあるとも報告している。たとえば、カケスは食べ物を隠した時期を覚えているらしく、腐る前に隠し場所から取り出すという。

 人間を対象にした認知心理学では、こうした記憶は「エピソード記憶」と呼ばれ、過去の出来事を思い出せる種だけに備わった能力とされている。一部の研究者は、カケスにこんな能力があるはずがないとして、クレイトンの研究を認めようとしない。「動物は(現在という)時間に縛られているものです」と、比較心理学者のセーラ・シェトルワースは主張する。人間のように、過去、現在、未来を区別できないというのだ。

 こうした懐疑的な見方に対抗するには、もっと説得力のある証拠が必要だ。「エピソード記憶のもともとの定義は、何が、いつ、どこで起きたかを覚えていることです。そこで私たちは、カケスがいつ、どこで、どんな食べ物を隠したかを覚えているという明確な証拠を示しました。すると、認知心理学者たちはさらにハードルを高くしたのです」

 同様のいらだちは、動物の研究者の多くが感じている。人間特有の能力と似たような知的能力が動物にもあると主張すると、そのたびに認知心理学者たちが能力の定義を変えてしまうのだ。

イルカとの心の交流

 1960年代の後半、認知心理学者のルイス・ハーマンが、ハンドウイルカの認知能力を研究し始めた。

 人間と同様、イルカは仲間との交流が活発で、極地付近から熱帯地方まで広く生息する、行動範囲の広い動物だ。仲間同士でさかんにコミュニケーションをとり、音波を使って物体の位置や形を知る能力をもつ。1980年代には、ハーマンの認知研究の対象は、ハワイのケワロ湾海洋哺乳類研究所にいる4頭の若いイルカ、アケアカマイ、フェニックス、エレレ、ヒアポに絞られた。4頭は好奇心旺盛で、遊びが大好き。社交性も豊かで、ハーマンや学生たちにもよくなついた。

 「私たちの研究には、指針となる哲学がありました」とハーマンは話す。「教育者が子どもの潜在能力を100%開花させようとするように、イルカの知的能力をすべて引き出そうというものです。イルカは大きくて非常に複雑な脳をもっています。『きみたちには、すばらしい脳がある。それで何ができるか、ちょっとやってみよう』。そんな調子で研究を始めたんです」

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