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特集

動物の知力

MARCH 2008


犬の言語能力を見る

 新たな知的能力は、進化の過程で意外にたやすく生まれる。それを端的に示すのが、犬の言語能力だ。たいていの飼い主は、言葉が通じていると思って犬に話しかけている。

 犬の言語能力が大きく注目されるようになったのは、ドイツのテレビ番組に、ある天才犬が登場してからだ。その犬、ボーダーコリーのリコは、ざっと200種類のおもちゃの名前を記憶し、新しい名前も難なく覚える。

 ライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所の研究チームが、リコの話を聞きつけて飼い主に連絡をとり、言語能力を検証した。発表された論文によれば、リコは人間の幼児のように次々に言葉を学び、記憶するという。人間の2歳児は1日に新しい単語を10語ほど覚えるが、別の研究によれば、この能力は言語の習得に必須な要素の一つとして、生まれつき幼児の脳に備わっているものだという。研究チームは、犬のリコも同じようなメカニズムで言葉を覚えるのではないかと考えている。

 研究チームのもとには、わが家の犬も言葉がわかるという手紙が多数寄せられた。だが、リコと同程度の能力が認められたのは2頭だけで、いずれもボーダーコリーだった。うち1頭、ベッツィと呼ばれている犬は、300語あまりの単語を覚えている。

 「人間に一番近いはずの大型類人猿も、ベッツィにはかないません。ベッツィはある言葉を1度か2度聞けば、それが何かを表す単語だとわかってしまいます」と、認知心理学者のジュリアン・カミンスキーは言う。「人間のコミュニケーション様式を理解するという犬の能力はまだ新しく、人間との長い付き合いの中で生まれました。ボーダーコリーは昔から牧羊犬の役目を果たすために、飼い主の言葉に耳を傾ける必要がありました。だから言語能力が発達したのでしょう」

 犬が人間に飼われるようになったのは、約1万5000年前と考えられている。言語能力を進化させるには、比較的短い時間だ。では、犬の言語能力は、どれくらい人間に近いのだろうか。人間が抽象的な思考をするときは、言語などを介し、ものごとをいったん記号化する。カミンスキーらは、犬にもこうした抽象化ができるかどうかを調べるため、ベッツィの飼い主のシェーファー(仮名)に協力してもらって実験をしてみた。

 シェーファーは何枚かのカラー写真を渡された。どの写真も白い背景に、ベッツィが見たことのない犬用のおもちゃが写っている。シェーファーはその中の1枚、カラフルなフリスビーの写真をベッツィに見せ、実物を見つけてくるよう指示した。別室の台所には、フリスビーのほか3個のおもちゃと、それぞれの写真が置いてある。はたして二次元の写真と三次元の物体を結びつけられるだろうか。

 ベッツィは台所に走っていき、フリスビーをとって帰ってきた。何回テストしても、フリスビーかその写真をとってきた。「ベッツィは、写真を見るだけで物を見つけられるようです。ただし、もっとテストを重ねないと、断定はできません」とカミンスキーは解説する。

 写真と実物を結びつけるのは一見難しくなさそうだが、実は抽象的な思考ができる有力な証拠だ。ベッツィにその能力があるとなれば、人間にしかできないと思われていた高度な思考が、動物にもできることになる。

 では、発明し、創造する能力は人間だけのものなのか。高層ビルを建てたり、詩を書いたり、コンピューターを作る動物はいない。だが、創造性も進化の産物で、無から生じたわけではないことが、動物の研究からわかってきた。

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