/2008年1月号

トップ > マガジン > 2008年1月号 > 特集:地球の悲鳴 廃棄パソコンは どこへ行く


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

ナショジオクイズ

Q:次の生き物のうち、カブトガニに最も近いのはどれでしょう?

  • クモ
  • カニ
  • カメ

答えを見る



特集

地球の悲鳴
廃棄パソコンは
どこへ行く

JANUARY 2008


  さらにEU各国のメーカーは、製品を安全に廃棄する責任も負う。EUは加盟国の法令などの統一を目的とした「EU指令」を出しているが、最近の指令では、電気電子機器への鉛や水銀、難燃剤などの使用を原則禁止する「グリーン・デザイン」を奨励している。また電気電子廃棄物をメーカーが回収し、責任をもってリサイクルするテイクバック方式を実現するために、インフラ整備を求める指令も出ている。だが、こうした防衛策にもかかわらず、不要になった大量の電気製品が闇ルートで欧州各地の港を出発し、開発途上国に向かっている。

電気製品の“墓場”

 世界のハイテク機器の製造地と言えばアジアだが、寿命が尽きたハイテク機器の多くは再びアジアに舞いもどってくる。

 特に中国は、以前から世界の電気製品の“墓場”になってきた。製造業の飛躍的な成長に後押しされて、中国各地の港は、鉄、アルミニウム、プラスチック、紙といったリサイクル可能な廃棄物の集散地となった。1980年代半ばからは、電気製品のゴミが大量に流れこむようになった。プリント基板の希少金属を取りだすと、けっこうなもうけになるからだ。

 米国テキサス州にあるリサイクル会社の所有者バンデル・ノーウッドによると、ある時期から、海外のブローカーが中国に送る使用済み電気製品を物色しにくるようになったという。いまではこのやり方に疑問をもつノーウッドだが、当時はほかのリサイクル業者と同じく、双方の利益になる“おいしい商売”だと思っていた。「集めた廃品はすべてリサイクルされると聞きました。環境面で責任ある行動だし、こちらは在庫を処分できるうえにお金も入ってきますから」。こうして不要になった電気製品が大量に輸出され、利益を生むようになった。

 しかし2002年、有害廃棄物問題に取り組む国際環境団体バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)が、中国での廃棄物リサイクルの実態を暴くドキュメンタリービデオを公開したことで、「責任ある行動」の幻想は崩れた。

 ビデオの舞台になっている広東省の貴嶼は香港に近く、使用済み電気製品の一大処分場となっていた。人々は、パソコンのケーブルを燃やして銅線を取りだす、プリント基板をとかして鉛などの金属を分離する、基板を強い酸性液に浸して金を抽出するといった危険な作業に、子どもから老人まで家族総出で従事していた。

 中国政府は2000年に電気電子廃棄物の輸入を禁止したが、それでも流入は止まらない。ただBANの告発ビデオによって“リサイクル”の実態が世界に広く知られたため、中国政府は禁止品目を増やしたり、地方政府に法令順守を促すなどの努力を始めている。

 上海の南、浙江省台州もまた電気製品の大処分場だった。数年前まで、台州郊外では電子機器の分解がさかんに行われていた。貴嶼に並ぶ規模で、もちろん闇の商売である。しかし最近では、金属スクラップが大量に集まる近くの港、浙江省寧波や江蘇省海門の税関が、違法な有害廃棄物の出入りに目を光らせるようになった。訪れた小さな村々ではいまも、法の網をかいくぐった廃棄物処理が細々と行われているが、その規模は先細りのようだった。

 しかし、取り締まりに乗りだすのが遅すぎたかもしれない。有害廃棄物による病気や障害は、すでに表面化している。2007年、中国の科学者たちが次々と発表した研究では、BANのビデオに登場した貴嶼の環境が悲惨な状態にあることが明らかになった。

  廃棄物の処理をまだ続けている地区は、大気中のダイオキシン濃度が世界で最も高い。土壌を汚染している化学物質のなかには発がん性が疑われるものもあり、内分泌や免疫機能を阻害する懸念もある。作業員の血液からは、PBDE類と呼ばれる難燃剤が高濃度で検出された。ごく微量でも、胎児の発達を妨げるおそれがある物質だ。

 中国はいずれ、電気電子廃棄物の輸入を阻止できるかもしれない。だが、廃棄物は水のように流れていく。数年前なら広東省や浙江省の港に運ばれていた廃棄物は、タイやパキスタンなど、規制がゆるい国々に、行き先を変えるだけだろう。

 「中国やインドといった一部の国だけが規制を強化しても、世界全体の問題解決にはつながりません」と語るデビッド・N・ペロー教授は、社会正義の観点から電気電子廃棄物の問題に取り組んでいる。「廃棄物は、規制のゆるいところへと流れていきますから」

Back3next


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー