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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
消えゆく永久凍土

DECEMBER 2007

文=バリー・ロペス 写真=ベルンハルト・エドマイヤー

界各地で融解が懸念されている永久凍土。その名のとおり、永久に凍ったままでいられるのだろうか? 美しい空撮写真で凍土の現状を伝える。

 はるか彼方に浮かぶ月は遠い存在のようにも思えるが、その姿には見る者を引きつけてやまない力がある。自宅の庭や窓から月を見あげて思い浮かべるのは、何もない無の世界だ。そこには風も、風に揺れる草もない。住む人もいなければ、小川の奔流も獣の通った跡もない。だが同時に、月には神秘的な美しさがある。雲のない夜に双眼鏡で見てみるといい。クレーター、台地、そして“海”。鮮やかに浮かぶ光と影のパターンに心を奪われ、湧きあがる喜びに胸がふるえることだろう。

 この世界は深遠な美しさに満ちている。だが、私たちは日々の生活に追われ、美しい風景など目に入らないことが多い。暮らしに忙殺され、人生の大きな目標さえ忘れがちだ。多くの人は現代社会を生き抜くのに精一杯で、美が呼び起こす刺激にも無関心なふりをせざるを得ない。

 私は永久凍土の写真を見つめながら、人類の“感受性”が退化しているのではないかと考えている。北極圏は世界のどの地域よりも、地球の気候変動の影響がはっきりと表れている場所だ。かつて炭坑では、有毒ガスの有無を調べるためにカナリアを坑道に持ちこんだというが、地球を炭坑にたとえるならば、北極圏という名のカナリアは今、弱々しい鳴き声をあげている。

 北極海に浮かぶノルウェー領のスバールバル諸島やアイスランド、カナダの北極圏、シベリア、アラスカ。その中には、永久凍土が解けだし、海氷が薄くやせ細り、氷河が後退しはじめている場所もある。この写真を撮影したエドマイヤーは、人類の将来が頭から離れなかったのではないだろうか。これらの美しい風景は、遠く離れた別世界のようにも見えるが、同時に地球とのつながりを改めて意識させる。特に、今では痛ましい姿になった地域の自然と、人類との絆を。

 月と同じように、北極圏の風景も遠く離れた存在に見える。優美だが、どことなく近寄りがたい。だが、月とは違い、北極圏は私たちと切っても切れない関係にある。永久凍土の平原にぽつんと浮かぶ小さな丘「ピンゴ」、多角形土、円形土、ビーズ状に連なる池や沼。こうした北極圏の特異な地形は、すべて地球の一部なのだ。

 これらの写真を見て抱く感情は、幼い頃に目にした風景に対する郷愁に近い。あの頃はまだ、人類が自然界に及ぼす影響の大きさを知らず、自分自身が自然に対して責任をもつという自覚はなかった。

 広大な湿地に姿を変えた夏のツンドラ地帯の豊かな自然に囲まれて、キャンプしたときの記憶がよみがえる。蚊の大群に悩まされたり、テントを張れる小高い土地が見つからずに苦労した経験は忘れられない。

 その当時、地上から眺めた景色は、息をのむほど美しかった。地平線いっぱいに広がる大地。ツンドラに点在する池の水面や川面に反射して、きらめき続ける太陽。風に揺れるワタスゲの穂。ウワウルシの仲間の赤い実と、その間にちりばめられた緑色のコケマンテマや紫色のユキノシタ。空を見あげれば、数え切れないほどのコオリガモやオナガガモが群れになってどこかへ急ぎ、抜け落ちた羽が宙を舞う。鳥を1羽も見かけない日もあった。キャンプを張るためにシートを地面に広げようとしたら、キツネの下あごの骨が転がっていたこともある。

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