/2007年12月号

トップ > マガジン > 2007年12月号 > 優雅なる空の王者 アホウドリ


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

記事ランキング

ナショジオクイズ

Q:次の生き物のうち、カブトガニに最も近いのはどれでしょう?

  • クモ
  • カニ
  • カメ

答えを見る



特集

優雅なる空の王者
アホウドリ

DECEMBER 2007


 海岸では、おびただしい数のアホウドリが海と陸を行き来しているが、彼らが翼をはためかせることはほとんどない。風力と重力を巧みに利用し、軽々と空中を前進するのだ。アホウドリが飛ぶために利用する風は、さまざまな天候を海岸に運んでくる。雲一つない好天、突き刺すような雹、そして雪まじりの疾風――。秒速20メートル以上の突風の中では人間は息もできないが、アホウドリは平然としている。

 スティープルジェイソン島での最終日。夕暮れの日差しの中で、私は一羽のアホウドリと並んで腰を下ろした。その鳥は、求愛でも始めるかのように、私に一礼した。そっと手を差しのべると、首を伸ばして優しく指をついばんだ。私はこれまでに見た求愛中の鳥のしぐさを真似て、くちばしを指でなぞり、頬をなでてやった。

 アホウドリたちはのんびり暮らしているわけではない。海で餌をとるのには、多大なエネルギーを使う。そのため、一度の繁殖期に産む卵は一つだけだ。1年もかけてヒナを育てるので、子育てで体力を消耗しきってしまう。子育てを終えた次の繁殖期は卵を産まず、羽が生えかわって体重が回復するのを待つ。

 ニュージーランドの南方650キロにあるキャンベル島。大波が絶えず打ち寄せるこの島には、アホウドリたちの繁殖地がある。上空ではハジロアホウドリ、サルビンアホウドリ、ニュージーランドアホウドリ、シロアホウドリ、ワタリアホウドリなど様々な種が飛びかい、ミズナギドリ類やマダラフルマカモメもいる。ここで産卵するのは、ハイガシラアホウドリ、ハイイロアホウドリ、そしてキャンベル島でしか見られないキャンベルアホウドリだ。ニュージーランドはアホウドリの最大の繁殖地なのだ。

 ニュージーランド環境保護局の生物学者ピーター・ムーアと私は、広大な渓谷でアホウドリを発見した。遠目にはさほど大きく見えないが、一羽がそばに舞い降りると、ムーアが急に小さく見えた。シロアホウドリは、鳥類の中で最も翼が長い。開長3.5メートルの両翼で空を切り、流れるように飛ぶ姿はまるで小型セスナのようだ。しかし、地上にたたずむ姿は、なめらかな陶器を思わせる。

 シロアホウドリたちは卵を温めているところだった。草でできた巣の上で、純白の翼に頭をうずめてまどろみ、背中のふわふわとした羽毛が風にそよいでいた。ムーアが調査用の足輪を調べ、そっと取り替えていると、1羽の鳥がかぎ状のくちばしで彼の指をそっとかんだ。遠くに海の見える草地に、数羽のシロアホウドリがいる――ただそれだけで、このうら寂しい斜面がとても魅力的に見えてくる。

 キャンベル島は外界から隔絶された場所だ。しかし、19世紀初頭にアザラシ猟のため多くの人間がこの島を訪れ、一緒にネズミが入り込んだ。その後、1900年頃に農業を志す人々が入植し、牧草、羊や牛、火、犬を持ち込んだ。それらすべてがアホウドリにとっては災いをもたらす存在だった。アホウドリの卵は「ガチョウの卵より大きく、食べると美味しい」と評判をよび、入植者が島から去った1930年頃には、シロアホウドリのつがいはわずか650組ほどにまで減少した。さらに、ネズミは他の動植物を食い荒らしてしまった。

 危機に直面した島の自然を回復するため、同国の環境保護局は2001年にネズミを駆除した。その効果は大きかった。周囲の小島から小型の海鳥やシギ、コバシチャイロガモ、多様な昆虫が戻ってきて草花が育つようになったのだ。シロアホウドリのつがいの数は、1990年代半ばに約1万3000組まで回復した。しかし、理由はわからないが、いまだにこの水準を上回ることはない。私がのぞいた巣の中には、重さ500グラムほどの卵がぽつんと残されていた。伴侶を亡くした親鳥が、飢えのために卵を見捨てざるを得なかったのだろうか。

 アホウドリの魅惑的な美しさに心を奪われた私は、世界で最も美しく、人間が寄りつかない場所をいくつも訪ね歩いた。その日はムーアとともに、6時間かけてキャンベル島の北端部にある、キャンベルアホウドリとハイガシラアホウドリの繁殖地を訪れる計画だった。

 どんよりとした暗雲がたれこめる天候のなか、ムーアと私は島の北端の断崖にやってきた。ぶ厚い雲の隙間から日差しがもれ、灰青色の海面に反射している。何千羽もの鳥の群れが、光の筋を横ぎる。風に乗って鳥たちのけたたましい鳴き声と、糞の臭気が運ばれてきた。がけの上には、泥の土台に据えられた巣がひしめき、それぞれの巣には生後1カ月のヒナが首を伸ばして座っている。私は親鳥が戻ってきてヒナに餌を与える様子を見ていた。親鳥はヒナとくちばしを交差させ、15分ほどかけてヒナの体重の3分の1ほどの食事を与えると、餌を求めて再び数千キロの旅へと飛び立っていった。餌をたずさえてこの営巣地に戻ってくるのは、数週間後だ。それまでにヒナは見ちがえるほど成長する。外見では見分けがつかなくなったわが子を、親鳥は鳴き声や匂いで探す。

Back2next


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー