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特集

シリーズ「宇宙」日本編
見えない光で
宇宙を探る

DECEMBER 2007

文=阪本成一

本が打ち上げた三つの天文衛星が、宇宙から届く“見えない光”をとらえて新型のブラックホールや星の生誕領域などを発見している。日本の宇宙研究は、どうやって世界の最前線に上りつめたのか。シリーズ宇宙の第3弾。

 古来、目に見える光(可視光)だけで宇宙を眺めてきた人類は、20世紀半ば近くになって、目に見えない光で宇宙を観察する手段を手に入れる。

 最初は電波の観測だった。電波望遠鏡を宇宙に向けると、周期的に点滅する信号(パルサー)やビッグバンの名残をとどめる電波など、人々の想像を超える世界が次々にあらわになった。単に遠くを見るための道具に過ぎなかった望遠鏡は、特殊なセンサーをつけることで飛躍的に進化した。

 やがてロケットや気球を使って大気圏外にまで進出した人類は、地上には届かない赤外線やX線でも宇宙を観測しはじめる。光に比べて波長の短いX線では、高温で高エネルギーの現象を観測できる。それはブラックホールや超新星残骸(重い星が一生の最後に爆発した後の残骸)といった、主に天体の死にまつわる現象だ。一方、可視光より波長の長い赤外線では、星や銀河が誕生する領域など、低温の暗黒宇宙が浮かびあがる。こうして、可視光以外の電磁波で宇宙を観測する、多波長天文学の時代が到来した。

 日本もいち早くこの動きに追随する。1970年に初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した日本は、旧ソ連、米国、フランスに次ぐ世界4番目の人工衛星打ち上げ国となった。そうして日本は、自力で大気圏外から宇宙を観測するすべを得たのだ。

 ほどなく日本の宇宙科学研究は独自の進化を始める。原動力となったのは、小田稔という一人のX線天文学者だった。小田は、X線星の存在が明らかになった1960年代に、「すだれコリメータ」と呼ばれる装置を発明した。これはX線検出器の前に2枚のすだれのようなフィルターを置くことで、宇宙からやってくるX線の方向を特定する装置だ。

 すだれコリメータを大気圏外に送りだせば、謎に満ちたX線の源が次々に明らかになるはず。小田はこの装置を搭載した衛星開発に力を注ぐ。76年の最初の打ち上げには失敗したものの、79年、念願のX線天文衛星「はくちょう」を無事、衛星軌道へ投入する。「はくちょう」は、大きさが80センチ角ほどで重さが100キロ足らずの、とても小さい衛星だったが、X線バーストと呼ばれる爆発を多数発見するなど、大きな成果を上げた。

 その後、すだれコリメータは改良が重ねられ、X線天文衛星「てんま」だけでなく、太陽観測衛星「ひのとり」「ようこう」にも搭載された。可視光でとらえると穏やかに光を放ち、静かに見える太陽も、X線で観測すると盛んな磁気活動の様子が浮かびあがってきた。こうして日本のX線天文衛星と太陽観測衛星は、現在までほとんど途切れることなく軌道から宇宙を観測し続けている。小田がきりひらいたX線天文学は、日本の基礎科学分野の中でも屈指の国際競争力をつけることとなった。

 90年代になって、X線が主流だった日本の天文衛星は、ほかの波長にも展開しはじめる。宇宙科学研究所(いまのJAXA宇宙科学研究本部)は、理学研究と工学研究という二つの目的を同時に満たすことで予算をやりくりしながら、科学衛星の開発を進めた。

 その典型が、97年に打ち上げられた工学試験衛星「はるか」だ。工学試験を目的に打ち上げられ、宇宙空間で巨大なパラボラアンテナを花開かせた。このアンテナ伸展技術は、次期X線天文衛星にも応用される。「はるか」は一方で、世界唯一のスペースVLBI(超長基線電波干渉法)用電波望遠鏡として理学研究にも貢献した。宇宙と地上に設けたアンテナを結んで巨大な電波望遠鏡ネットワークをつくれば、解像度を飛躍的に高められる。「はるか」はその一つのアンテナとして8年9カ月にわたって活躍し、巨大ブラックホールから噴き出すジェットの詳細構造などを調べた。

 現在、宇宙から最先端の画像を送り続けているのが、X線天文学という日本のお家芸を継承する二つの衛星「すざく」と「ひので」、そして日本初の赤外線天文衛星「あかり」だ。それぞれ欧米の宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡と役割を補完しあい、新しい謎に迫っている。

 X線スペクトルの分析能力に長けた「すざく」は、鮮明なX線画像を得るのに特化した米国のチャンドラや、高い感度を持つ欧州のXMMニュートンとともに、宇宙の超高エネルギー現象の研究をリードしている。「ひので」はX線のほか、可視光や紫外線の観測装置を備え、過去最高の感度と解像度で太陽の活動を見つめている。「あかり」は、欧米の赤外線天文衛星が個別の天体の詳細観測を競うなかで、暗黒の宇宙をくまなく照らし出すことを目指し、赤外線天体の全天カタログの完成という壮大な目標を現実のものにしつつある。

 これら三つの宇宙望遠鏡は、今も刻一刻と、死んでは生まれ、あるいは形を変えながら、絶え間なく活動する宇宙の姿を地球に送り届けている。その姿をつぶさに調べることで、新たな宇宙の謎が解き明かされるに違いない。

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