/2007年12月号

トップ > マガジン > 2007年12月号 > 特集:奇妙な恐竜たち > インタビュー


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

ナショジオクイズ

Q:米国の五大湖すべてを足した面積に近いのは次のうちどれでしょう。

  • 北海道
  • 日本の本州
  • 日本全土

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

奇妙な恐竜たち

DECEMBER 2007

インタビュー:作家ジョン・アップダイク

 本誌12月号の特集「奇妙な恐竜たち」では、作家のジョン・アップダイク氏にエッセイを書いてもらった。アップダイク氏の自宅で、今回の仕事や恐竜への関心、恐竜を扱った氏の作品などについて話を聞いた。
インタビュアー:本誌サイエンス・エディター ジェイミー・シュリーヴ

シュリーヴ:
ナショナル ジオグラフィック誌に書くのは、今回が初めてですね。普段書いている媒体とは大分違うと思うのですが、引き受けていただけて、本当に喜んでいます。快諾した一番の理由は何ですか?

アップダイク:
恐竜には以前から興味がありました。古生物学を研究するという意味でなく、はるか昔にあれほど巨大な――奇妙とは言わなくても――生物が存在していたという事実にひかれるんです。現代という時代に取り組む作家も、ときに地球が刻んできた膨大な時間と、そこで起きた不可思議な出来事を自らの世界観に織り交ぜていく必要に迫られる場合があります。恐竜だけでなく、もはや目にすることのできない巨大な哺乳類などに関する短編もいくつか書きましたよ。こうした生物には、どこか心を打たれますね。今、私やあなたが生きているように、かつては地上で栄えながら、遠い昔に姿を消してしまった生き物たち――彼らのことを考えると、畏敬の念を抱くとともに、胸を刺されるような痛切な思いをおぼえます。

シュリーヴ:
そうしたテーマを扱ったあなたの作品のうち、特に私の印象に残っているのが『絶滅した哺乳動物を愛した男』という短編です。この中で主人公の男性は哺乳類に関する本を熟読することで、破綻した人間関係から逃れようとしているように見えます。

アップダイク:
確かに彼は人生の岐路に立っていて、目の前にある、絶滅した哺乳類に関する小冊子を読むことで、心の平静を得ています。実は私自身がデンバーで、たまたまそうした小冊子を手に入れたんですよ。入手したいきさつは覚えていませんが、現在のパキスタンだかアフガニスタンで発見されたブラキオサウルスについて、簡潔ながら見事に紹介してありましたね。それに豚やウッドチャックの祖先にあたる、驚くほどたくさんの生物についても載っていました。

シュリーヴ:
あの作品を読み、恐竜のグロテスクさや、進化淘汰の過程での彼らの苦闘ぶりが豊かなイメージを呼び起こすのを感じて、いつか私たちの雑誌で書いていただけないかと思っていたんですよ。今回、実現できて心から喜んでいます。初期の傑作『ケンタウロス』には、高校の科学の教師で、悩める男ジョージ・コールドウェルが地球の歴史の壮大さや美しさを生徒たちに伝えようとして、教室中を大混乱に陥れてしまう場面がありますね。恐竜に対するコールドウェルの深い愛情は、生徒たちの嘲笑やからかいを物ともしない力を持っていました。あなたのお父上は確か科学と数学の教師だったと思いますが、古生物学にも特別な興味をお持ちだったんですか?

アップダイク:
父が教えていたのは数学だけです。大学で科学の授業をとったかもしれませんし、経験を重んじる性格でしたから、いろいろなものに興味を持っただろうとは思いますが、ああした特別な授業を行ったことはありません。普通の教材を使って1日、あるいは1週間かそこらで地球の壮大な歴史を想像させようというのは、現実的な話ではありませんからね。一時期、私は高校教師の子供として、シュールレアリズム的な手法で20世紀の高校の姿を描けないだろうかと模索しました。神話や、今は姿を消した生き物たちが現実と交錯する世界を作り上げたかったのです。『ケンタウロス』の授業では、いたずら好きの生徒が三葉虫の入った袋を引っくり返しますね。数億年も前にいなくなった三葉虫が教室に現れるわけです。これは人間の状況や不安、恐怖を浮かび上がらせるために不可欠な要素でした。人間が登場する以前に流れた長い時間について考えるのは、私たちにとって恐ろしいことでもあります。普通の若者たちの平穏な日常と混沌とした状態とが共存する高校で、ケンタウルスと人間の両面を持つ男にあえてそうした授業をさせてみたのです。

シュリーヴ:
今回の仕事では、興味があるとはいえ、あまりなじみのない題材で書かなくてはならなかったわけです。なのに締切よりも1カ月半近くも早く、原稿を郵送していただいたのには感激しました。どうやってこれほど早く恐竜のことを理解し、すらすらと書き上げることができたのですか?

アップダイク:
風変わりな新しい恐竜に関しては、資料や本を受け取っていましたからね。膨大な資料を読み込む必要がなかったし、恐竜に関する多少の基礎知識は持っていました。スケジュール的に早めにやっておいた方がいいという事情もありました。何より、ちょっと不安だったんです。確かに、ナショナル ジオグラフィック誌に書くのは今回が初めてですし、とても権威のある雑誌ですから。私が子供の頃、中流階級の家庭には必ず黄色い背表紙の雑誌がずらりと並び、それが神聖にさえ思えました。そうした雑誌に書くと思うと、いささか緊張しましたよ。それに私は科学ライターではありませんから、原稿を出した後も編集者とやりとりする必要が出てくるかもしれない。だから少し早めに取り掛かかったんです。

シュリーヴ:
とても助かりました。他の記者も同じように早めに仕上げてくれれば、掲載前にもっと検討できるんですがね。

アップダイク:
あなたはすばらしい編集者でした。実際のところ、今回の原稿にもあなたのアイデアがたくさん入っています。

シュリーヴ:
多少のアイデアは出したかもしれませんが、完成した文章を読むと、これはあなた自身の作品に他なりませんよね。ナショナル ジオグラフィック誌の大きな特徴は、正確さを何より重んじるという伝統にあります。今回の仕事でおわかりの通り、この主義は熱心なチェッカーたちによって頑なに守られています。しかし今回のようなエッセイの場合、文章に生命を吹きこみ、生き生きとした作品として完成させるためには、正確さだけでなく、隠喩など詩的な表現におけるある程度の自由が必要で、両者の間に微妙なバランスが求められます。その点で、今回は成功したと言えるでしょうか?

アップダイク:
ええ、成功したでしょう。私はニューヨーカー誌に50年書いていますが、あそこにも事実確認を行う部署がありますよ。だから、いくら響きがよくて一見正しく見える文章も、間違っている場合があるという事態には慣れっこです。今回の仕事で変更を求められた時も、「もっとリズムよく」とか「より正確に」とか、何にせよ元の文章よりも良いものにするために指摘してくれているわけですから、決して腹は立ちませんでした。あくまで部分的な変更ですし、いわば構想段階に近い状態のものに手を入れるのですから。ナショナル ジオグラフィックの科学者から意見を言われたのに、自分の考えを通したことも確かにあります。でも概して情報は喜んで取り入れ、より良い原稿にしようと努力しました。

シュリーヴ:
あなたの初期の作品の中でも有名な『鳩の羽根』では、主人公の少年が死に対する恐怖にかられ、宗教への疑念に悩みます。あの小説を書いた頃に比べて、あなた自身の考え方は変わったんでしょうか? もっと一般的な話でも結構ですが、ダーウィンの進化論を信じることは、神を信じることと両立すると思われますか?

アップダイク:
かろうじて両立する、というところでしょうか。多くの人々と同じく、私もその点を自分の中で明確にできているわけではありません。あの小説に登場するデイヴィッド・カーンは現実の死と格闘した後、自分なりの結論に達します。ひとつの死は、地球が刻んできた長い時間と歴史の果てにあるものです。私たちはそうした膨大な時間を振り返るとき、自分たちもいつかは死んで一握りの灰になってしまうだけではないかと焦燥感にかられます。しかしデイヴィッドは殺したばかりの鳩の羽根のみごとな意匠から思いをめぐらせ、これほど美しいものを数多く生み出す美しい存在が、暗闇でろうそくの灯を消すように自分の生命を終わらせてしまうはずがないと確信を得るのです。私もまた、キリスト教徒として教会に通い続ける一方で、科学にも深い関心を持っています。サイエンティフィック・アメリカン誌を購読して、最新の科学の知識に遅れまいと努力しているんですよ。原子より小さな物質や私たちを取り巻く広大な宇宙など、科学の世界では不可思議な事柄がますます増え続けています。はっきりとはわかりませんが、私の人生にも目的があり、ある種の証があるのだという信仰を持てなければ、暗澹たる気分になってしまうと思いますね。


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー