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奇妙な恐竜たち

DECEMBER 2007


 長い年月を経て、恐竜はごつごつと節くれだち、とげの本数を増やしていった。まるで生存競争の激しさを物語っているかのようだ。それでも、首のまわりのえり飾りや背中の骨板が、防御や攻撃に役立っていたとは言いきれない。

 パキケファロサウルスは分厚い頭骨のてっぺんがこんもり盛りあがった石頭恐竜だ。いかにも頭突きしそうな頭だが、いったい何のために? ティラノサウルスなどの大きな捕食者にはほとんど効果はなかっただろう。むしろ頭骨以外は無防備なので、かみつかれたらひとたまりもなかったにちがいない。

 パキケファロサウルスの雄同士が頭突きで戦っていたという説も、あまり説得力がない。頭頂部の骨は25センチもの厚さがあったが、衝撃を吸収するようにはできていないからだ。頭骨の形も平たくて薄かったり、うねのように盛りあがっていたりと様々で、接触を伴う戦いには向いていない。おそらく相手を威圧したり、せいぜい小競り合いに使った程度だろう。さらに実用性がなさそうなのが、パキケファロサウルスの仲間であるドラコレックスの頭部だ。頭頂部は分厚くないものの、鋭い角やこぶが様々な方向にいくつも飛びだしている。

 白亜紀後期の草食恐竜で、カモノハシ竜の仲間であるパラサウロロフスは、後頭部から管状の長いとさかが伸びている。シュノーケルのように、水中を泳ぐときに呼吸するために使っていたという説もあったが、とさかには空気が通るような穴はない。ここで鳴き声をあげて群れの仲間との意思疎通を図っていたとか、異性を誘うための派手な皮膜を旗ざおのように支えていたという説もある。

 そう、恐竜が生きのびるためには、戦いに強かったり、食べ物を集めるのがうまいだけではだめだ。異性をひきつけ、群れに受けいれられなくてはならない。

 では、いま地球上に存在する生き物は、恐竜と比べてどんなところが優れているのだろう? ラン藻類やカブトガニ、ワニのように、太古の昔から生き永らえてきた種であっても、あらゆる生き物は環境の変化に影響され、いつかは絶滅の危機を迎える。知能という点においては、恐竜はわれわれ現生人類はもとより、チンパンジーにだって到底かなわなかった。だが、それ以外の点で優劣を論じるのは簡単ではない。現生人類は優れた特性をたくさんもちながら、ほかの生き物とは比べものにならないほどのスピードと規模で、地球環境を破壊しているのだから。

 長い繁栄期の間、恐竜はあらゆる環境のすみずみにまで入りこみ、種類を増やしていった。恐竜の中で最小の部類だった獣脚類は、骨格が軽く地面をすばしこく駆けまわっていたが、やがて羽根が生えて鳥に進化し、今でもさえずりながら空を飛びまわっている。「デイノニクスがハトになった」――進化にまつわる驚くべき物語の中で、これほど意外な結末もないだろう。

 恐竜物語のまだひもとかれていないページにも、驚きは数多く潜んでいる。2007年春には、内モンゴルで見つかった鳥に似た大型恐竜、ギガントラプトルの化石が公表された。白亜紀後期に生息したオビラプトルの仲間だが、とにかく巨大なのだ。オビラプトル類の体重は通常40キロ前後だが、ギガントラプトルは体重が1.5トンもあり、体高も2階の窓をのぞきこめるほどだった。獣脚類の多くは、体長2メートルほどで大きな目と脳をもつトロオドンのように、敏捷性と知能を高める方向で進化したが、ギガントラプトルは大きさで勝負することにしたのだ。だが、歯のない巨大なくちばしで、いったい何を食べていたのだろう? かぎ爪のついた前肢には、小型のオビラプトルの仲間と同じように羽根が生えていたのだろうか?

 これらの化石は、海中に沈む大陸が海面にわずかに顔を出した島のようなものだ。そのまわりでは、進化の波が絶えず寄せては返している。遠くからながめれば、恐竜たちは何とか生きのびようと体のつくりに工夫を凝らし、時にはグロテスクな格好にまでなったのに、努力もむなしく波に飲まれていったように見える。無数の種が絶滅に見舞われながらも長い時を生き延びてきた恐竜だが、中生代の終わりになると、小惑星が地球に衝突した影響のためか、ついに死滅した。

 だが恐竜は、地球の新たな支配者となった人間の心の中で生きつづけ、古生物学者はもちろん、子どもたちまでも夢中にさせる。私の次男はシリアル食品のおまけだった恐竜のミニチュアを熱心に集め、部屋にこもって夢中になって遊んでいた。笑いを誘う珍妙な外見、無邪気なまでの巨大さ、控えめな小さい脳みそ――息子は恐竜のそんなところが大好きだった。人類が今も参加している生存競争で、恐竜たちは結果的には敗れさってしまった。しかし、岩の中からは今なお新種の恐竜が次々と現れつづけ、われわれに驚きや喜びを与えてくれるのだ。

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